小説 川崎サイト

 

吉田めくり

川崎ゆきお




 吉田はのんびりと週刊誌を読んでいた。
 実際には眺めていた。
 ページをめくりながら、活字を見ていたのだ。
 ページは次々とめくられる。活字のタイトルや写真が目に入るが、読まない。
 読みたいと思う記事ではないからだ。
 しかし、せっかく買ったのだから、読まないと損だ。
 損だと思いながらも、入り込めるような記事ではないのだ。
 吉田は新聞も眺めているだけだ。畳の上で広げ、大きくページを開く。たまに手が止まるが、記事ではなく広告だ。
 吉田は新聞も週刊誌も目にしているのだが、記事は読まずタイトルだけ目で追う。
 記事に目を通すのではなく、タイトルに目を通すのだ。
 それだけのことだが、世の中の動きが頭に入ってゆく。すぐに忘れてしまうのだが、何かの時、思い出す。
 吉田は記事まで読まないのは、見出し以上の内容が記事にはないと思っているからだ。
 しかし、朝夕新聞を眺め、週に二冊週刊誌を眺めている。
 本文を読むより、見出しを見ているほうがイメージがわきやすく、そのイメージは記憶されやすい。
 だから、何か事件があり、続報が載っていると、流れもそれとなく把握できる。
 吉田の日課の中で、それは楽しみな一時なのだ。
「お爺ちゃん、インターネットならタイトルだけ見ることできるよ」
 孫が吉田に言う。
「そうかい」
 孫はタイトルだけがびっしり並んだ画面を見せる。
「こりゃ、記事だろ」
「タイトルだよ」
「こんなにビッシリ並んだら読みにくいじゃないか」
「タイトルが知りたいんでしょ」
「タイトルだけじゃ間が悪い。目玉の運動にならん」
「お爺ちゃん目玉の運動で読んでたの」
「そうじゃない」
「じゃ、指先の運動?」
「これこれ、からかう奴があるか」
「こっちのほうがお爺ちゃん向きだよ」
「文字が小さいからだめだよ」
「大きくできるよ」
「わしは、下向きで見るでな。このパソコン画面、下にならんか」
「倒したらなるかも」
「これこれ、本当に倒しちゃだめだぞ」
「うん」
 吉田は週刊誌を今度は後ろ側からめくり出した。
 
   了




2008年02月28日

小説 川崎サイト