小説 川崎サイト

 

山中の墓場

川崎ゆきお



 有村は山の中で墓を発見した。しかし下の村からかなり距離がある。
 古い墓ばかりだ。
 墓場は窪地にあり、周囲は石垣で囲まれている。
 墓石に人の姿が浮かび上がっている。地蔵ではない。
 他の墓石は文字だけだ。
 有村は近づいて顔を見る。仏像ではないようだ。肖像画のような感じがある。
 数えると十はある。それが一列に並でいる。
 仏像のようにも見えるが、その下の文字を読むと、謎が解けた。
 住職だった僧侶の墓なのだ。十番目の端にまだ余地がある。しかし、十番目も相当古く、そこで途絶えた感じだ。
 村からかなり離れた山中だ。山寺でもあったのだろうか。
 この古い墓場の近くに寺があった可能性がある。
 村の人に聞けば分かることだ。
 その他の墓は何々家と文字が刻まれている。
 しかし墓は死んでいる。下の村の先祖たちなら、もう少し手入れされているはずだ。
 墓は五十基ほどある。それなりの集団がいた場所なのだ。
 しかしこれだけの家々が住めるような場所は、近くにはない。山の中なのだ。田畑さえない。
 やはり下の村の墓地なのかもしれない。
 有村はハイキングを途中でやめ、下の村に戻った。
「古い墓?」
「はい。山寺でもあったのですか」
「あったようだな」
「この村の墓地ではないのですか」
「違う」
「この村の墓は?」
 村民は里山を指さす。
 お寺の鐘つき堂のようなものが見える。
「山寺について知っている人はいますか」
「さあ」
 村人は不機嫌な顔だ。
「昔、何かあったのですか?」
「さあ、もう知ってる人はいないだろうなあ。私もよく知らん。この村の人間だけどな」
「あの墓地は手入れしないのですか?」
「山の中だろ。あそこへは行ってはいかんと子供のころから、言われとる」
「この村とは関係のない人々の墓なのですね」
「そうだろうな」
 村の人達が、ある時、入れ替わったのかもしれない。
 
   了

 


2008年03月07日

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