小説 川崎サイト

 

血の気

川崎ゆきお



「どうじゃ、落ち着いたか」
 引っ越して一週間になる高島の祖父が訪ねて来た。
「いるようです」
「何が?」
「得体の知れない…」
「化け物か」
「はい」
「おまえはカンが鋭い子じゃったからなあ」
「余計な物が見えてしまいます」
「見たのか?」
「感じました」
「今は?」
「いません」
「それは一体なんじゃ?」
「分かりません」
「この部屋を借りておった人は五年住んでおったらしい。子供が大きくなったので、引っ越したらしい」
「それは聞きました」
「平気で住めたんじゃ。引っ越しの理由もはっきりしておる。家を買ったらしい」
「はい」
「聞いておるのか」
「何をです」
「わしの話をだ」
「聞いてます」
「何も出んと言うことじゃ」
「はあ」
「おまえのカンは、妙じゃ。いない物が見える。最初からおらんのじゃよ」
「その一家には見えなかったのでしょう」
「見えるのではなく、感じるのじゃろ」
「はい」
「どのように」
「お爺ちゃん、今日変ですよ」
「なぜじゃ」
「変に追求するから」
「変な物が憑依しておるかもしれんなあ。おまえは感じんか」
「はい」
「じゃ、わしの問題か」
「そうだと思います」
「くどいが、どう感じるんだ。一度聞いてみたかった」
「ドキッとするような」
「ほう」
「うたた寝で、ふっと我に返る時のような血の流れ方をするのです」
「それは血の気だ」
「血の気」
「血流の問題じゃ」
「はあ」
「今度血流を調べてもらうといいなあ」
「そんな内の問題ではなく、外の」
「まあ、いいだろ。別に困ることじゃないし」
「でも、いるんです。何かが」
「おまえもそろそろそんなことから卒業せんとなあ。もうすぐ成人だ」
「はい」
 
   了


2008年03月13日

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