小説 川崎サイト

 

冷静

川崎ゆきお



「冷静な時って、うち沈んでいる時じゃないですか」
「はあ?」
「元気で浮かれている時は、冷静じゃないですよね」
「そうかなあ」
「そうだと思いますよ。これは私の体験ですが。あなたの場合どうですか?」
「僕の場合か…あまり考えたことはないが」
「じゃ、いつも冷静なんですか」
「ああ、あまり、変化はないねえ」
「そうなんですか。じゃ、私だけなのかな」
「うち沈んでいる時って、視野が狭くなりませんか?」
「なるかも」
「それと冷静さとは、冷静の意味が違うのでは?」
「はあ、どのように?」
「冷めているだけとかね」
「それを冷静というんじゃないですか」
「視野が狭いと、見渡しが悪くなり、事態をよく見ていないことにならないかな」
「そう言われればそうですねえ。でも気持ちは静かですよ」
「それは沈んでいるんだよ」
「安静にしているようなものですか」
「そうだね。だから、自分の事しか考えが至らない。自分の内面ばかりを見ている感じかな」
「なるほど、それじゃ冷静な判断とは言えませんねえ」
「君は沈んでいる時の静けさを言いたいのだろう」
「はい、そうです。この状態は駄目ですかね」
「駄目じゃない。君には正しいかもしれませんよ」
「どういうことでしょう?」
「心が静まるのなら、それはそれでよかれという事です」
「よかれか」
「君の心境だけの問題ですからね」
「じゃ、冷静とは何でしょう?」
「きっちり判断することじゃないですか」
「じゃ、沈み込んでいる時のほうが無難です」
「それは保身にはいいがね」
「積極さがないということですか」
「積極的でも消極的でも、どちらにも舵が取れるのが、冷静な判断だよ」
「でも浮かれている時は、とんでもない冒険に出そうです」
「だから、そこで冷静さのあるなしが出るんだ」
「分かりました。動揺を抑えることが冷静さなんですね」
「んまあ、そうかな」
「まあ、私としては、心の平穏があれば、何でもいいのですよ」
「ご随意にどうぞ」
 
   了



2008年03月16日

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