小説 川崎サイト

 

安全パトロール

川崎ゆきお



「下校中の児童さんは周囲に十分注意しましょう。こちらは安全パトロールです」
 スピーカーの音を背に、二人の老人が自転車で走っている。
「わしらのことかなあ」
「さあ」
 二人は脇道に入る。その先に小学校がある。別に学校に用事があるわけではない。近道なのだ。
 安全パトロールの車も脇道に入る。
「下校中の児童さんは…」
 二人を追跡するように、音が追いかけてくる。
「この町も安全ではなくなりましたなあ」
「そうですなあ。あんな車が出動しておるのですから、非常に危険な町になりましたんでしょうなあ」
「おっと、振り返っちゃだめですよ」
「いや、まだいるかと思って」
「音で分かりますよ。同じ言葉を繰り返しておるじゃないですか。音の大きさが同じでしょ。まだ、後ろにいるのですよ」
「ゆっくり走っておるのですなあ」
「物売りの車と同じですよ」
「しかし、何が危険なんでしょうな」
「だから、私らですよ」
 二人は次の角を直進する。運動場に沿った道で回り込めば正門に出る。幹線道路をジグザグに斜めに走っているようなものだ。
 偶然その道中に小学校があるに過ぎない。
 直進後、スピーカーの音量が落ちた。
「あの角で曲がりましたな」
「あっちは行き止まりだよ。宅地だが、どの通りも行き止まりさ。抜けられない」
「それを知らないで曲がったんだな」
「すぐに引き返してくるさ」
 二人は下校中の児童と何度もすれ違う。
 どの児童も下向き顔だ。
「あのスピーカーのためだろうよ」
「そうそう、いつもなら、道端で悪さしてるくせにな」
「そうそう、ペットボトルを蹴って転がしたりとかね」
「今日は神妙だな」
 二人は大通りに出た。そこに百均がある。
「パトロール中のプレート、本当に売ってるのか?」
「自転車につけるやつだよ。それがあると、安心して走れるんだ」
 
   了



2008年03月17日

小説 川崎サイト