小説 川崎サイト

 

悩ましい話

川崎ゆきお



「最近落ち着かないようですが、どうかしましたか」
「大金が入ってね。それで落ち着かないんだ」
「それはなくしたほうがいいですよ」
「ああ、だから早くなくそうと考えてるんだ」
「僕が協力しましょうか」
「それにはおよばん」
「すぐになくしてしまえますよ。そして、落ち着きを取り戻せますよ」
「いやいや、なくしてしまうと逆に落ち着かない。問題は減らし方なんだ」
「つまり有意義な使い方ですね」
「将来楽しめるようなね」
「買い物とかは?」
「それなんだがね」
「欲しいものがあるでしょ。それを買えばいいんじゃないですか」
「金のない時は欲しいとは思っていなかったものが出て来た。これは欲しいものとは言えないだろ」
「じゃ、余裕のないころ、欲しかったもので、いいんじゃないですか」
「それは面白くないんだ」
「え、何が?」
「買ってもだ」
「じゃ、それも欲しいものじゃなかったわけですね」
「そうなんだ」
「率直に欲しいものを買えばいいじゃないですか」
「それなら、何でもありになる。それほどの大金じゃないし、買うだけのことで終わってしまう」
「分かりました。実用性の高いものが望みなんですね」
「そうそう、これから先、長く楽しめるようなものをね」
「娯楽品ですね」
「いや、役立つものが望みだな」
「いくらでもあるでしょ?」
「あるんだが、もったいない気がしてね」
「でも使わないと落ち着きませんよ」
「そうなんだ。災難だよ」
「貯金とかはどうですか」
「それじゃ、パッとせん。大きな喜びを今欲しいんだ」
「問題は、落ち着きたいわけでしょ」
「だから、使えば落ち着く。もう無駄遣いできない状態になればね」
「贅沢な悩みですねえ」
「うん、実に悩ましい」
 
   了




2008年03月18日

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