僕はこう思う
川崎ゆきお
「僕はこう思うと言ったことないなあ」
「なぜなんだ」
「あんまり必要がないから」
「でも、何か思っているんだろ。思っていることを発言すればいいじゃないか」
「そうだけどね」
「私はこう思うって、言わないと相手に伝わらないでしょ」
「まあ、そうなんだけど」
「言わないと話し合いにはならないぜ」
「まあ、それも分かっているんだけどね。言っても同じことかなと思ってしまうんだ」
「言わないと、他に意見がないと思われてしまうぜ」
「どうせその意見は採用されないと分かっているから、反対意見、言う必要はないと思うんだ」
「じゃ、どうして会議に出るんだよ」
「参加だよ参加。立ち会ったってことかな」
「それじゃ議論にはならないじゃないか」
「直接参加しないだけだよ」
「分かった。後で恨まれるのが怖いからだろ」
「恨まれる？」
「反対したことで恨まれる」
「相手がかい」
「そうだ」
「まあ、どうせ反対意見が通じないのなら、下手に反対しても意味がないからね。結局賛成することになるんだから、余計なこと、言わないほうが無難だ」
「やはり、そのパターンか」
「会議だけじゃないよ。僕はあまり自分はこう思うとは言わないんだ」
「本音を隠しているってこと？」
「本音も建前も隠していることになるかな」
「つまり、意見がない人なんだ」
「うん、あえて言うほどの意見がない」
「分かった。意見はあるけど、言わないだけなんだ」
「だから、言うほどの意見じゃないってこと。どうせ、なるようにしかならないんでしょ。下手に逆らっても虚しいだけだよ」
「それでも言ったほうがいいんだよ。意見を持っている人としてやっていけるから」
「意見は誰でも持ってるじゃないか」
「だから、それを言うことが大事なんだよ」
「大事だとは思わないよ。君だって反対意見言われるとむかつくだろ」
「参考にするさ」
「でも、否定されてるんだよ。君の意見は間違いだって。それって冷静に受け止められる？」
「議論とはそういうものだよ。いろいろな意見を受け入れながら、それでも自分はこう思うって」
「受け入れたのだったら、逆らうような意見を言うのはおかしいじゃないか。君も相手を否定していることになるぜ。そこまでして言う必要があるのかなあ」
「あのう」
「何だよ」
「君、すごく意見を言ってるよ」
「ああ」
了
2008年03月22日