小説 川崎サイト

 

支線のホーム

川崎ゆきお



 ふと降りてみたい駅がある。
 降りたくて降りるのではなく、自動的にそうなってしまう感覚となり、自分の意志かどうかさえ判断する暇がないまま立ち上がり、ドアから出てしまうのだ。
 降りるべき駅として、昔から決まっていたような感じである。
 その駅は乗り換え駅で、ローカル線と繋がっている。
 ホームは二つある。
 三村が降りたホームの片側からローカル線が発車するが、専用ではなく、本線の特急や普通列車も来る。
 ローカル線はその隙間に割り込むように入り込む。駅を少し過ぎたところで本線と分離する。
 三村がある意味自然に降りたのは、この駅のある町ではなく、ホームなのだ。
 ホームに出た三村は端に向かって歩いた。その先に改札はない。
 自分はどうして降りてしまったのかについて考えてもよかったのだが、降りるべきして降りたものなので、自分の意志で降りたことにした。
 ホームの端にベンチがあり、何人もの人が座っている。立っている人もいる。
 喫煙コーナーだ。
 三村は煙草は吸うが、我慢できずに降りたわけではない。
 ベンチの一つが空いていたので座る。
 とりあえず三村は煙草を吸った。
 本線の列車が次々に到着しては発車して行く。列車待ちで停まっていた普通列車も出て行く。行き先はいずれも本線の駅だ。
 一時間ほど経過する。
 喫煙コーナーの客はそのままだ。
 煙草を吸っていない客もいる。
 ローカル線の到着を待っているのだ。
 そして、その列車がホームに入って来た。
 三村は深く考えないで、皆と一緒に乗り込む。
 ドアはすぐに閉まり、発車した。
 喫煙コーナーにいた人々はすべて乗っていた。
 列車はすぐに支線に入る。
 人家はまばらとなり、電柱の街灯しか映らなくなる。
 見知らぬ駅のホームに列車が入る。待っている客はいない。
 車内アナウンスが終点駅到着を告げる。
 三村は皆と一緒に降りる。
 この駅も乗り換え駅のようで、ホームが二つある。
 誰が引率するわけでもないのだが、同じ方向へ歩く。
 ホームの端の喫煙コーナーだ。
 三村たちはベンチに座る。立ったままの人もいる。
 元の駅に戻ったとも思えない。
 
   了


2008年04月1日

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