小説 川崎サイト

 

情報の渦

川崎ゆきお



「情報を集めたり整理する人が多くなったが、情報を作る人が減ったような気がするねえ」
「漠然とした話ですねえ」
「長く情報にかかわっているとそう思うんだ」
「情報を作る人とはどんな人ですか?」
「ソースを作った人だ」
「素材のようなものですか」
「そうだ」
「ニュースを最初に発信する人ですか」
「それは情報だ。ソースではない。何か事件があり、それを記事にしただけだ」
「そうですねえ。取材したものを整理しただけですねえ。でも、貴重な情報でしょ」
「まあ、それで世の中のことが分かるので有益だがね。又聞きに過ぎないにしても」
「じゃ、当事者の情報が貴重なのでしょうか」
「それは生き証人のようなものだから貴重かもしれんが、客観性に欠ける面がある」
「だから、いろいろな情報から推測する人が大事なのではないですか」
「だが、それはかなり編集されておる」
「では、どんな情報が貴重なのでしょうか」
「そこがよく分からない」
「はい」
「だから、困っておる」
「意味がよく分かりません」
「考えなくなる」
「はあ?」
「自分が考えなくても、答えを出してくれておるからな」
「確かにその影響はありますねえ。でも情報が多いから、考える時間がないのですよ。早く結論を得たいわけです」
「誰かに結論を出してもらうことになる」
「まあ、そういうことですが」
「ますます自分で考えなくなる」
「たまには考えますよ」
「それ以上の情報がない時は自分で考えるんだ。あるときは考えない。そうだろ」
「でも納得できる結論じゃないと拒否しますよ」
「それはただの判断だ」
「では、どんな感じがいいのでしょうか」
「それがなかなか難しい」
「そうなんですか」
「私の考えも、どこかで聞いたような考えになる。その量が多いだけで、決してよく知っておることではない。情報を多く持っているだけのことなんじゃ」
「それだけでも貴重な存在ではないのですか」
「質がない」
「質ですか」
「知識があるだけで、実態は淋しいものなんじゃ」
「今の先生の本音こそ貴重な情報かと思います」
「いや、これもよく使う言い草だよ」
「はい。失礼しました」
 
   了


2008年04月2日

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