小説 川崎サイト

 

裏社

川崎ゆきお



 有名な観光地の神社だ。
 その奥は原生林が続く山。
 メインの神殿から見れば裏山の繁みが続く淋しい場所となる。
 原生林を縫うように小道が続いている。ところどころに社がある。神殿というほどの規模ではない。
 小道がそれを繋いでいるのか、小道沿いに建ったのかは分からない。もうほとんど山の中名ため、いくらでも用地がある。
 吉野は突き当たりの社についた。何かの神様が祭られている。
 神社の大きな庭のようなものだ。
 突き当たりの社の後ろは山の斜面で、もう遊歩道のようなものはない。
 寺で言えばここが奥の院だろう。
 吉野が戻ろうとすると声がした。
「お参りですかな」
 社横の小屋から老人が出てきた。
「はい」
「裏社へは行きなさったか」
「いえ」
「ここは奥じゃが、裏もある」
「裏」
「道がないのでな。お参りする人もおらん。案内板にも記されておらん」
「そんな社があるのですか」
「あるんだな。それが」
「公開はしないのですか」
「道を作らんとな」
「行ってみたいです」
「そうか」
 老人は斜面の繁みに向かった。
 吉野は後を追う。
「鹿も入りこまん場所でな。獣道すらない」
 老人は斜面を斜めに登って行く。斜面の上にあるのなら、裏社も見えるはずだ。
 もうすぐ頂上かと思った辺りで老人は立ち止まった。
「ただの観光ですかな」
「はい」
「願い事とかはないのですかな」
「特にありません」
「そうか」
「その裏社は特別な何かですか」
「参る人がおらんので、打率が高かろう」
「どこにあるのですか」
「ここじゃ」
 老人は足元を指さした。
「こ、これなんですか」
「規模は本殿より大きい」
 吉野は真上から裏社を見る。
「これは、見た覚えがあります」
 山の頂から見ているわけではない。
 原生林の地面だ。
 吉野はしゃがみこんで裏社を覗き込んだ。
「触れてはいかんぞ。壊れるから」
「はい」
 
   了

 


2008年04月4日

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