小説 川崎サイト

 

夢神

川崎ゆきお



「ここはどこだろう」
 井上は暗闇の中にいる。自分の姿さえ見えない。
「夢の中じゃよ」
「あなたは」
「夢の神じゃ」
「じゃ、僕は夢の中で夢の神と話しているのですか」
「そうじゃ」
「どうして僕はここにいるのですか。それに真っ暗です」
「夢の中じゃからな」
「これは夢なのですね」
「真っ暗闇に耐えられるのがその証拠じゃ」
「気が付けば真っ暗で、それはわずかな時間です。それにすぐあなたが声をかけてくれたので、暗闇に置かれる怖さは半減です」
「半減か」
「それに夢の中だと思えば安心です」
「では、なぜ夢の神が現れたのかは分かるかな」
「夢の中なので、何でもありですよ」
「君は夢の中でも冷静じゃな」
「そういう冷静な見え方ができる夢だと思います」
「わしは君の夢の中の神ではない」
「でも、僕が見ている夢でしょ。僕の中に出てくるキャラクタなんだ」
「そうではない。わしは君のイメージではなく、別ものだ」
「じゃ、何です?」
「人の夢の中をうろうろしておる夢の神じゃ」
「不審者ですか」
「違う。そのレベルではない。もちっとロマンチックな存在よ」
「どんな」
「わしが君に夢を見させておるんだ。君は見せられておるんじゃぞ。従って君の夢でもないし、君のキャラクターでもない」
「夢のお告げのようなものですか?」
「まあ、そんな感じかのう」
「夢枕のようなものですか? 夢枕に立つとか」
「わしと君とは初対面じゃ」
「なぜ僕にこの夢を見せるのですか」
「だから、うろうろしておるだけじゃ」
「それは神様の仕業とは思えませんが」
「夢の神とは、単なる名前よ」
「では、目的を話してください。何を告げようとしているのです」
「もう、終わりだ」
「え、何が」
「この夢がじゃ」
「はあ」
「ノリが悪いから、次へ行く」
 井上は目を覚ました。夢の内容は何も覚えていない。
 
   了


2008年04月15日

小説 川崎サイト