小説 川崎サイト

 

ガラス玉

川崎ゆきお



「過去の亡霊。祟りじゃ」
 陰者が言い切る。
「過去の亡霊が祟りをなしているわけですか」
「そうじゃ」
 若き経営者はほほ笑む。
「わしを呼んだのだろ。これを期待しておったはずじゃ」
「予測できる答えですが、漠然としています。亡霊とは何を指すのでしょう」
「思い当たらぬか」
「死んだ人間がいたとでも…しかも祟るような人間が」
「思い当たらぬか」
「見当がつきません」
「生き霊は?」
「我社を恨んでいる人間ですか」
「その恨みで、呪われておる」
「仕事上のことですからね。それほど強い恨みを持ち続け、呪い続けるような相手の見当がつきません」
「跳ね返すことで改善しましょう」
「呪詛をかけている人間が分からなくてもですか」
「呪いとはそういうものじゃ。負のエネルギーを跳ね返せばよい。誰が何を…とか問う必要はない」
「信じられない話だが」
「だから、わしを呼んだのじゃろ。答えは最初から出ておる」
「どうして負のエネルギーを跳ね返せるのですか」
「装置で」
「装置?」
「跳ね返す装置じゃ」
「それを設置すればいいのですか」
「極めて簡単なことだ。わしを呼んだことが正解じゃったな」
 陰者はスチールバックからガラス玉を取り出した。
「これを置けばよい」
 陰者は今度は台を取り出す。
「この上にガラス玉を置くのじゃ」
「これがセットか」
 社長はガラス玉と台を見つめる。
 ガラス玉はビー玉を大きくしたもので、手にズシリとくる。台座は木製だ。
「これはどこで作ったものですか」
「それは秘密じゃ」
 台座には飾り彫りがついている。
「いくらですか」
 陰者は金額を示した。
「その百倍の金額を出しますから百セットお願いします」
 陰者は総額を暗算しかけた。
 
   了


2008年04月27日

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