小説 川崎サイト

 

最初のもの

川崎ゆきお



 最初に手に入れたものが結局一番よかったのではないかと思えることがある。
 最初のものが不満で、次々に別のものを手に入れるのだが、それでも不満が消えず、際限なくそれが続く。
 ある日、最初に手に入れたものをごみ箱から取り出す。
 それが不満でごみ箱に入れたのだから、それで満足を得られるはずはない。
 ところがそのものの欠点ばかり見ていて、長所があることに気づく。
 その長所は、その後手に入れたものよりも優れた面だ。その面は、その後手に入れたものに触れるまでは気づかなかった長所なのだ。
「やはり、最初がいいのでしょうかね」
「偶然でしょうね」
「では、二番目のものでもかまわないわけでしょうか」
「二番目のものは一番目のものの不満からの展開ですからね。ベースは一番目のものなのですよ」
「つまり一番目より優れていると思い、手に入れのが二番目ということですね」
「そうです。改良型でしょうね」
「三番目はさらに進化したものでしょうか」
「もう、一番目の延長ではないかもしれませんね。三番目は。どちらかというと二番目の延長です」
「四番目になると、もう一番目とは違うものになるのでしょうか」
「そうです。だから、一番目の基本がもうそこにはないかもしれません。別のものを探しているのと同じなんですよ」
「でも最初のものを改良したものを捜し続けているわけでしょ。それがメインの筋ですよね」
「ええ、ええ。だから、どんどんずれて行くのです」
「でも、最初のものが不満なので、戻れないのではないですか」
「そのお陰で長所も見いだされたわけです。だから、最初のものの価値が高まったわけです」
「それは最初から分からなかったのでしょうか」
「分かっていたかもしれませんが、それほど価値があるとは思わなかったのでしょうね」
「では、最初のものが一番よいということでしょうか」
「偶然よかったのでしょうね」
「偶然ですか」
「そのよさに気づかないまま手に入れたのです。狙ったものではない」
「でも二番目のもの、三番目のもの、さらに次のものには価値はないのですか」
「見いだすことでいくらでも変化します」
「でも、見いだすためには、他のものを知らないと浮かんでこないわけですね」
「そうです。因果な話です」
 
   了



2008年04月28日

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