小説 川崎サイト

 

心霊先生

川崎ゆきお



「こんにちは。心霊先生」
「ああ、今日は」
「また怖い心霊現象の話を聞きにきました」
「そうかい。で、前回は怖かったかね」
「えーと」
「話を忘れたのかい」
「覚えていますよ」
「では、どんな話だった?」
「怖かったです」
「話の中味だよ」
「うん」
「忘れたのだね」
「覚えているけど、怖くて忘れました」
「まあ、いい」
「また、お話、聞かせてください」
「何の?」
「怖い心霊現象の」
「どうして、聞きたいんだ」
「心霊先生のお話が面白いから」
「怖くなく、面白いのか?」
「怖くて面白いです」
「愉快な話ではないと思うがな。君は怖い話を聞くと愉快になるのか」
「不思議な話を聞くと愉快になります」
「興味本位で聞いていたのだな」
「面白いから、興味がわきました」
「君はよく心霊現象について聞いていなかったようだな」
「どうしてですか」
「ほら、聞いていなかった証拠に、聞き直しているじゃないか」
「覚えていますが、怖くて忘れました」
「ではこれからする話も、忘れるのだろうなあ…」
「そんなことはありません」
「でも、前回の話も忘れ、心霊現象に対する接し方も忘れておるではないか」
「心霊先生。今日は機嫌が悪いのですか。いつもなら、いっぱい話してくれるのに」
「それは君がきっちり聞いていると思っていたからだ」
「いつもちゃんと聞いています」
「君の目的は何かね」
「心霊現象の話を聞きたいだけです」
「じゃ、本屋で探せば、いくらでもある」
「心霊先生から直接聞きたいのです」
「私はもう君には奉仕しない。話しがいがないからね」
「でも、いつでも来てもいいっておっしゃったじゃないですか」
「サービスはここまでだ」
 心霊先生は奥へ引っ込んだ。
 
   了


2008年05月01日

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