小説 川崎サイト

 

次の手

川崎ゆきお



「次の手を考えないといけませんなあ」
「またですか」
「で、ないと、先細りますぞ」
「我輩は最早打つ手なしだ」
「それは、いけませんなあ」
「いやいや、もう結構という意かな」
「ありませんか」
「ないです」
「私が考えている、次の一手をお披露目しましょうか」
「それも、また、結構です」
「どうして」
「もう聞き飽きましたよ」
「次の一手は、まだ語ったことのない…」
「確かに毎回違いますが、毎回駄目でしょ。なのでもう、その繰り返しに飽きたという意です」
「私が飽きるのなら分かるが、あなたは飽きる必要はないでしょう。私はまだ飽きないでやろうとしておるのです」
「飽きないことに飽きませぬか」
「えっ」
「飽きないから飽きないのですよ。飽きるなんて事はないですよ」
「じゃ、我輩がただただ、聞き飽きただけのことかもしれませんなあ」
「そうですよ。飽きたのはあなたのほうですから」
「成算あらば飽きもせず」
「成算はあります。今度は大丈夫です」
「でも、一度も成功したためしはないのでしょ」
「だからこそ、今度は成功するかもしれないじゃないですか」
「その意、分かります。下手に一度でも成功しておれば、無駄足掻きはしないでしょうなあ」
「それは、如何なる意ですか?」
「まだ、未知の領域が残っておると思えるからです」
「そういえば、あなたは何度か成功しましたねえ」
「次は駄目ですよ」
「どうして、私より、確率が高いじゃないですか」
「あなたの場合、最初から駄目なんですよ。だから、一度も成功には至らん」
「それが幸いしてか、まだできるのかもしれませんなあ」
「我輩はもう降りますでな。あとは御随意に」
「やはり、それは寂しい。一緒に失敗しようじゃありませんか」
「あなた、今回、成功するんじゃないのですか」
「ああ、そうでした」
 
   了


2008年05月12日

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