小説 川崎サイト

 

ジャイアントラット

川崎ゆきお



 雨が降りしきる中、奥田は古い家に入った。
「呼んだのは他でもない奥田君」
 中小企業とはいえ、社長と新入りの平社員の関係だ。
「やって欲しいことがある」
 社長からの直命だ。三つ以上命令系列を飛び越している。
「雨に関係のあることでしょうか」
「余計な憶測をしないで聞きなさい」
「わざわざ、こんな雨の日に呼ばれたもので」
「雨は偶然だ」
「はい」
「これから頼む内容は、誰にも漏らしてはいけない」
「係長にもですか」
「そうだ」
「でも、どうして、そんな役を僕に」
「まだ、丁稚だからだ」
「丁稚」
「まあ、新米の使い走りだからだ」
「新入社員の研修でしょうか」
「そんなことをわざわざ社長が直々やるはずはなかろう」
「そうですね。もう定時を過ぎてますし」
「それがどうした?」
「これはお仕事なのでしょうか」
「そうだ」
「じゃ、残業手当はつきますか」
「ん、当然だ」
「でも、タイムカードが」
「面倒な奴だな。社長命令だ」
「はい」
「頼みたいこととは他でもない」
「なんなりと」
「地下室に大きなネズミがいる。それを退治してくれ」
「えっ」
「聞こえんのか」
「承りましたが」
「武器は適当に探せ。地下に色々あるので」
「社屋の地下室ですか」
「この屋敷の地下だ」
「地下があるのですか」
「醸造用の穴だ。今は使っておらん」
「大きいとは?」
「五十センチほどかな」
「それは尻尾を入れてですか」
「入れないでだ」
「それは、相当大きいです。大きなネズミじゃなく、別の生き物ですよ」
「我が家ではジャイアントラットと呼んでおる」
「社長。それは退治するとか、駆除するとかの話ではありませんよ。別の問題になってますよ。そんな巨大なネズミがいることは、ニュースになりますよ」
「その奥には丸太ん棒で武装した小鬼もおる」
「それは、ゴブリンですよ」
「やってくれるね」
「はい、そればかりに専念できれば、こんないい会社ありません」
 
   了


2008年05月26日

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