小説 川崎サイト

 

村の冒険者

川崎ゆきお



 年老いた冒険者が村にいた。
 出発地点の村へ戻ってきたのだ。
 今は田畑を耕し、地味に暮らしている。
 そこへ村の子供たちが遊びに来た。
「お爺さんは冒険者だったの?」
「勇者だったの?」
「旅のお話、聞かせてよ」
 子供たちが一斉に聞くので、冒険者はどれから答えればよいか、迷ってしまった。
「それより君たち、ここに来てはいけないと親から言われなかったかい」
「言われたよ」
「そうだろ。だから、わしと話してはいけないんだよ」
「でも、冒険者を見るのは初めてだから」
「旅の冒険者が寄ることもあるだろ」
「寄っても話はできないよ」
「親が止めるんだろ」
「そうだよ」
「だから、叱られるから帰りなさい」
「でも、お爺さんは、もう冒険者じゃないのでしょ」
「そうだよ」
「だから、大丈夫だよ」
「そうだな、今は老いた村人だからね」
「わたしも冒険に出たい」
「僕も」
「おいらも」
 子供たちは楽しそうだ。
「どうして、冒険に出たい」
「いろいろな場所を旅したいから」
「旅行なら、冒険者でなくてもできるさ」
「お爺さんのように悪者を退治する勇者になりたい」
「わしは、勇者にはなれなかったよ」
「でも、村から出て、楽しそう」
「宝箱を見つけて、大金持ちになったり」
「悪者を退治して賞金をもらったり」
 また、子供達が一気に喋る。
「君達は村の仲良しグループかい」
「そうだよ」
「わしもこの村の仲間と一緒に村を出たのだよ」
「羨ましい」
「じゃが、帰って来れたのは、わし一人じゃ」
「みなははどうしたの?」
「もう、この世にはいないさ」
「へー」
「生き残ったわしは、この様で、一文なしで村へ戻って来た。今じゃ、村一番の貧乏人だよ」
 子供たちは黙った。
「冒険なんてするものじゃない。分かったかい」
 子供たちは納得できないようだった。
 この元冒険者も、子供時代、納得できないで、旅だった。
 今は納得できたようだ。
 
   了

 


2008年06月2日

小説 川崎サイト