小説 川崎サイト

 

自転車の道

川崎ゆきお



「暇だ」
 益田は今日も自転車で町内を走っている。しかし、そのスピードは歩くのに近い。また、歩くほどの体力は自転車なので使っていない。
 暇になるとやることがなくなるわけではない。しかし忙しいわけではない。
「昨日と同じコースだ」
 深く考えないで走っていると、自動的にコースが決まるようで、そのコースは繰り返し通ったコースとなる。
 市街地には道はいくらでもある。通れる道は多くあっても、その中の任意のコースを辿るようだ。
 毎日見ている通りは、目で見ているのではなく、記録されたキャッシングを見ているのかもしれない。一度記憶したものは、もうよく見なくても、頭の中のデータを呼び出せば済むのだろう。
 そのため刺激はなく、もう見ていないのかもしれない。
 益田は暇だが、金がない。そのため身動きが取れなくなった。金のかかることはできない。
 テレビを見たり、自転車散歩は安上がりだ。これだけなら、財布はいらないほどだ。
 時間や空間がのたうっているように見える。ゆるりとしているのだが、元気がない。
 無駄に時間を潰すような日々だが、平穏さが救いだ。
「そろそろ働かないといけないなあ」
 と、益田は思いながらも、ギリギリまで、このゆるり感に浸っている。
「よお」
「おお」
 同じように自転車散歩をする国枝と遭遇する。
「コースが重なっているようだな」
 益田が国枝に注意を与える。
「ああ、変更するよ」
 車が入り込まないその通りは、自転車散歩向きのため、どうしても、この裏通りに入ってしまう。
「見たくないなあ」
 益田が言う。
「俺もだよ」
 国枝が答える。
 二人は小学校時代までの同級生だ。
 子供用の自転車で騎馬戦ごっこをやった記憶が互いにある。
 今は二人とも安価なママチャリで、怠けた走り方をやっている。
「仕事は?」
「それを言うな」
「そうだな」
 二人は、それだけの会話で、別れた。
 同類がいることで、益田は、少し元気になったようだ。
 
   了

 


2008年06月3日

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