小説 川崎サイト

 

縄文の神社

川崎ゆきお



「不思議ですなあ」
「それが当たり前のようですよ」
「そういうことって、よくありますが、今回はかなり違いますねえ」
「ご覧になりますか」
「見せてくれるのかね」
「誰でも見れますよ。少し山の中ですが」
「で、その神社は、神社名はないのかね」
「ありません」
「それが千年以上続いておるのでしょ」
「おそらく、二千年近くかとも」
「それは古いねえ」
「今年は建て替えの年で、行事があったようです」
「寺ができたから、神社ができたんだろ」
「そうだと言われています」
「御神体は?」
「分からないようです」
「誰が管理してるんだ」
「地元の人です」
「じゃ、村の鎮守様じゃないの」
「まだ、村ができる前から、あったようです」
「あの辺は海が近いね」
「はい、山が迫っていますが、遺跡の多い場所です」
「古墳とか?」
「縄文時代のです」
「まさか、その神様は、その時代から」
「そうだと思いますが、もう覚えている人もいませんし、記録もありません。ただ、五十年に一度、建て替えることだけは伝わっているようです」
「それは国宝でしょ」
「指定されていません。ちょうど、庭にお稲荷さんを祭っているようなものですからね」
「山の中にか」
「木造の小さな社です」
「その山が、持ち主の庭なわけか」
「村の旧家の山林です」
「写真を見ますか」
「おお」
「見たことがあるでしょ」
「出雲大社じゃないか」
「それよりも古いですよ。まあ、その前は御神体は山の中にか立っていたようです」
「君はそれをどこで聞いてきたの?」
「管理者の孫からです。大学で同学です」
「ミニチュアが好きな長者の道楽だね」
「でも、御神体が」
「何なの?」
「神木のようですが、それは誰も見てはいけないとか」
「でも、建て替えの時、移動させるでしょ」
「大きな瓶に神木が入っているようです」
「鉢植えを連想したよ。しかしその瓶は値打ちがあるかもしれませんなあ」
「縄文土器だと思います」
「それ、国宝だよ」
「本物なら、そうですね」
 
   了


2008年06月4日

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