小説 川崎サイト

 

リーダーの条件

川崎ゆきお



「次のミーティングなんだけどね」
「事前打ち合わせですか」
「そうじゃないけど、悩んでいるんだ。いや、悩むほどのことじゃないんだけど、相談したいことがあるんだ」
「ミーティング内容ですか? 今日は販売促進案についてでしたね。それに関して、何か」
「いや、案件じゃない。ミーティングについてなんだ」
「そうなんですか。何だろうなあ」
「うちのミーティングはフリースタイルだろ」
「そうです。どんどん意見を言ってかまわない方式です」
「それなんだがね」
「はい」
「高山だよ」
「高山さんが、どうかしましたか」
「いつも彼がリードするじゃないか」
「そうですねえ。牽引車役でしょうね」
「相談とは、そこなんだが」
「はい」
「どうして高山がリーダーになるんだろう」
「高山さんはリーダーじゃないですよ」
「しかし、ミーティングではリーダーじゃないか」
「そういう役じゃないですか。牽引車ですよ。ただの」
「どうして、そんなことができるんだろ」
「はあ?」
「いや、恥ずかしい話なんだがね」
「はあ」
「このチームでは私が古株で、リーダーは私だよ」
「確かにそうですが」
「だが、ミーティングでは高山がリーダーじゃないか」
「それは会議中だけの話でしょ」
「その会議を引っ張っているのが高山だ。そこで方針とかが決まる」
「ミーティングですからね」
「会議をまとめているのは高山じゃないか」
「ああ」
「だから、どうして、そんなことができるのかを知りたいんだ。だから、相談だ」
「それは発言が多いからじゃないですか」
「それだけのことか」
「常に喋ってますからねえ。高山さんは。ベースのように」
「ベース?」
「常に鳴ってるんですよ」
「気に食わないんだよ」
「じゃ、ミーティング中に、言えばいいんじゃないですか」
「いや、彼自身への個人攻撃になる」
「あ、もう時間ですよ。始まりますよ」
「リーダーは私なんだ」
「はい承知しています」

   了


2008年06月7日

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