小説 川崎サイト

 

死神を見た

川崎ゆきお



「おじいちゃん、死神って何?」
「ああ、死神か」
「神様なの?」
「下に神を付ければ何でも神様になるよ」
「悪い神様もいるんだ」
「死神のことか」
「うん」
「疫病神とか貧乏神もいるなあ。いずれも厄介な神様だ」
「死神はどんな神様?」
「どうして、死神なんて知っているんだ」
「死神だと言ってたから」
「誰が?」
「死神が」
「死神が自分のことを死神と名乗ったのかい」
「そうだよ」
「どこで」
「廊下だよ」
「うちの廊下でか?」
「うん」
「死神を見たのか?」
「うん」
「その死神は、死神だと名乗っただけかい」
「トイレの前にお爺さんが立っていたんだ。でもよく見るとお爺ちゃんじゃない。似ていたけど頭が違うし、着ているものも違う」
「頭がどうしたんだ」
「お爺ちゃんは禿げてないけど、その人はてっぺんまで禿ていた」
「着ているものは?」
「着物だった。杖を持っていた」
「トイレの前でじっと立ってたのかい」
「お客さんかと思って声をかけたんだ」
「すると死神だと答えたんだな」
「うん」
「それで」
「消えた」
「夜中だね」
「うん」
「寝ぼけてたんじゃないのかい」
「でも、死神って言葉、初めて聞くよ。知らない言葉をどうして知ってるのかな」
「それで死神の意味を聞きたいわけか」
「うん」
「死人が出るときに来るんだ」
「言い伝えなの」
「そうだな」
「それで?」
「あっちの世界まで案内してくれる。まあ道案内役かな」
「そんな人がどうしてうちに来たの」
「そこだ」
「誰か死ぬの」
「婆さんは元気だし。わしも達者だ」
「パパやママも元気だよ」
「じゃ、誰だろう」
「突然死するのかなあ」
「言い伝えでは、病気とかで、布団の中で寝てないといけないんだ。その足元に出るんだよ。死神は」
「でもトイレの前に出たよ」
「まあ、そのうち分かるだろう。順番からいくとわしだけどな」
 
   了


2008年06月8日

小説 川崎サイト