小説 川崎サイト

 

雑魚キャラ

川崎ゆきお



 倒された雑魚キャラが空を見ている。回復するまで転がっているようだ。
「いつも思うのだけどねえ」
 雑魚キャラを倒した勇者が語りかける。
「私に声をかけたのかな」
 雑魚キャラは口だけ動かす。
「そうだ」
「言葉が通じるんだな」
「そのようだな。今まで話を交わしたことはない。今日が初めてだ」
「どうして、勇者が私のような雑魚キャラに声をかけるのかな」
「いつも思うんだ」
「ほう、何を」
「いつも倒されてばかりで、面白くなかろう」
「それは違うな」
「君が勝てる相手がいるのか」
「いるんだ」
「雑魚キャラに倒された勇者など聞いたことがないぞ」
「勇者は多くいる」
「弱ければ勇者ではない。だから、君たち雑魚キャラは負けるのが当然だろう」
「間違ってここを通る勇者もいる」
「間違い?」
「そうだ」
「何を間違うのだ」
「背伸びして、ここに来る」
「なるほど」
「勇者だが、私よりレベルは低い。だから、勝てる」
「しかし、レベルは低いとはいえ、勇者だ。倒される前に逃げるだろ。君たちは、テリトリー外まで追いかけてはこないはずだ」
「逃げない馬鹿もいるんだ」
「そんな勇者を倒すのが、君たちの楽しみなのか」
「そうだ」
「分かった」
「もう行くか。この先の雑魚キャラはレベルが数段高いぞ。もっとここで雑魚キャラ狩りをして、レベルを上げてから行ってはどうだ。今のあなたでは荷が重いと思うが」
「苦戦するが、倒されはしまい」
「そういう勇者がいるから、楽しみが増えるんだ」
「そんなに強いのか、この先の雑魚キャラは」
「ああ、この山を越えないで、回り込むように進めばいい。その途中に私より少しだけ強い雑魚キャラが待機しているはずだ。それを倒して、レベルを上げることだな」
「親切な雑魚キャラだな」
「あなたが、話しかけてくれたので、そのお返しだ」
「雑魚キャラの夢は何だ?」
「雑魚キャラには勇者のように夢を見るステージはない」
「それは寂しいなあ」
「なーに、その代わり安定した場所で、暮らしていける。いろいろな勇者を見るのも楽しみだしな」
「伝説の雑魚キャラがいるらしいが」
「それは私のことじゃないさ」

   了


2008年06月10日

小説 川崎サイト