小説 川崎サイト

 

穏やかな日々

川崎ゆきお



「穏やかな日々って、どんな日々でしょうね」
「平穏無事な日々じゃないですか」
「なるほど」
「刺激がない日々かも」
「それは退屈さを楽しみ日々なんでしょうね」
「憧れますか?」
「はい、憧れますねえ。こう毎日刺激物の連続では」
「やることがあっていいじゃないですか」
「いや、やることを探してうろうろしているときのほうが好きですねえ」
「暇をもてあます楽しさですか」
「そうです」
「宮本さんが、それに耐えられるのなら、いいのですがね」
「駄目でしょうか?」
「きっと、何かを見つけて、また忙しくなりますよ。うろうろする楽しさなんて一瞬かと」
「いや、耐えてみせますよ。やることを決めなければいいのでしょ」
「まあ、そうなんですが、うろうろするのは、やることを決めるためですからね。ですから、うろうろしないことがいいんじゃないですか」
「なるほど」
「退屈さに耐えることですよ。それが穏やかな日々に繋がります」
「絶えるというのは、今ひとつですねえ。我慢しているような感じで」
「我慢しないと、何かやってしまいますよ。すると穏やかではなくなります」
「そうですねえ。やはり、無理なんでしょうね。僕の場合」
「働き盛りですからね。じっとしているほうが苦痛になりますよ」
「荒木さんはいかがなんですか」
「いかがとは?」
「穏やかな日々ですよ」
「私は穏やかな日々を過ごしていますよ。ですから、ぱっとしない成績です」
「でも、会社で何もしていないわけじゃないでしょ。仕事はなさってる」
「やってますが、まあ、適当ですよ」
「忙しそうにやってるじゃないですか」
「そう見せかけているだけですよ。ぜんぜん忙しくもないのですよ」
「じゃ、僕の憧れのライフスタイルをもうやっているということじゃないですか」
「宮本さんにもできますよ」
「いや、僕には無理です。熱中するタイプですから。燃えてやるタイプですから」
「だから、私よりも出世も早い」
「まあ、そうですが」
「やはり、宮本さんは、忙しく働くのが好きなんですよ。穏やかな日々なんて本当は希望していないと思いますよ」
「いや、どこかで、凧の糸がぷつりと切れるように、風に乗って飛んでいくかもしれませんよ」
「それもまた善しですよ」

   了



2008年06月12日

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