小説 川崎サイト

 

事実と幻想

川崎ゆきお



「フィクションは面白くないねえ」
「想像の世界はお嫌いですか」
「想像するのは楽しいがね」
「じゃ、フィクションも想像で生まれた世界ですから、面白いのではないですか」
「自分が想像するのはいいが、他人の想像はつまらんよ」
「面白い想像でもですか」
「想像だから、面白くないんだ」
「でも、事実より面白いフィクションもありますよ」
「いくら面白くても、想像ではねえ」
「じゃ、本当の話がいいのですか」
「ああ、実際にあった話がね」
「でも、面白くない話もあるでしょ。実際の話でも」
「現実の話がすべて面白いといってるわけじゃないよ」
「そうですね。当然です」
「で、君はまたフィクションを語りに来たのかね」
「作り話をするほどの芸はありませんよ」
「まあ、聞きたくもないがね」
「現実の話では、どんな話が好きですか?」
「なんだいその質問は?」
「先生が何に興味があるのかを知りたいのです」
「それはプライベートな世界だ。話すようなことではない」
「それで、今度の講演なのですが」
「ああ、引き受けるよ。いつも世話になるねえ」
「事実と幻想という題でお願いします」
「それで、フィクションの話をやっていたのかね」
「はい」
「話すまでもないが幻想は嫌いだ」
「結構です。その感じで」
「相手は誰なの」
「デザイン課の新入生です」
「私が話すと興醒めになりそうだが」
「どうしてですか」
「幻想が好きそうな連中じゃないか」
「だから、先生をお呼びしたのです」
「そうなの」
「事実から幻想を引き出す手法とかを」
「私が話すの?」
「はい、先生の幻想談シリーズの裏話とか」「ないよ」
「引き受けていただけるのでしょ」
「何を話すかは、そのときの気分で決めるよ」
「なんとなく分かりました。先生の手法が」「そうなの」

   了



2008年06月18日

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