小説 川崎サイト

 

犬も歩けば

川崎ゆきお



「村田さんじゃないですか」
「やあ、大石さん。久しぶりです」
「この町へは」
「ここの駅前に立つのは初めてですよ」
「私もです」
「同じですなあ」
「早速ここから始めるわけですか」
「もう、始まっていますよ」
 二人は町ウオッチャーだ。
「最近、どうですか」
 大石が聞く
「さっぱりですよ。村田さんは」
「私もさっぱりですよ」
「犬も歩けば棒にあたるといいますからねえ」こうして歩くのがいいのですよ」
 二人は駅前の通りを直進する。
「やはり、同じようなものですなあ」
「私も村田さんも似たようなものです」
「いや、この町もです」
「ああ、そうですなあ」
「私が久しぶりなのは、そのためなんですよ。こうして出かけても変化に乏しい」
「同じです」
「だから、最近ご無沙汰でした」
「同じく。です」
「でも二人とも続けているんですね。こんな偶然の遭遇は珍しい」
「私も数ヶ月ぶりですよ」
「これはねえ、何かあるんですよ」
「この町にですか」
「いや、もうあったじゃないですか。ここで出合ったことがですよ」
「村田さんは、どうしてこの町へ」
「適当ですよ。目立たない町なので、あまり意識したことがない。何があるのかよく分からない町ですからね」
「そうですねえ。特に特徴はありませんなあ。名所旧跡もない。話題になってる場所もない」
「そうそう、だから、行く動機がないんですよ。そこでね、私、考えたんですよ。このなんでもなさがいいのではとね。どうせ、どの町も似たり寄ったりで、たいした差はないんだ。だったら、なんでもない町でもいいんじゃないかと」
「近いですね。その発想。私もそうですよ。ここはウオッチングにはむいていませんからね」
「でも、こういう町っていくらでもあるでしょ。どうしてこの町へ」
 二人とも適当に選んだ町探索が、重なったことになる。
「いやいや、村田さんと出合えて、それだけでも面白いです」
「私もです」
 二人は町など見ないで、雑談しながら歩いて行った。

   了


2008年06月21日

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