小説 川崎サイト

 

深夜の部屋

川崎ゆきお



 部屋の中がいつもと違う。
 いつからなのか、前田には記憶にない。気がつけば違っているのだ。
 天井の蛍光灯は四本ある。大きなカバーで白く輝いて見える。部屋の広さに比べ、明るい。それが二本に減ったような違いがある。 しかしすべてが暗いわけではない。以前よりも明るいところがある。明度は落ちたのだが、コントラストが上がっているのだ。
 これは蛍光灯の故障ではない。
 前田は白いカバーを見る。四本とも点いている。
 そうなると視力を疑うことになる。原因はそれしか考えられないと思うからだ。
 前田は眼鏡をはずし、目をこすった。
 すると余計に暗くなった。
 しばらくすると、目も治まり、妙な明るさに戻った。
 眼鏡をはずしても状態は変わらないのだから、眼鏡が原因ではない。
 前田は掛け時計を見た。深夜の三時だ。異変に気づいたのは数分前だ。
 カーテンを開ける。
 まだ夜だ。
 夜明け前の明るさの違いではない。外の明かりとは関係はない。
 前田はドアを開け、キッチンに入る。
 そして、明かりを点ける。
 流し台があり、小さな冷蔵庫があり、トースターがその上にある。
 いつものキッチンだ。異変はない。
 トイレも確かめるが、ここも変わりはない。
 そして、再び居間に戻る。
 やはり、おかしい。
 と、いうことは、この部屋だけが妙なのだ。
 前田がこのマンションに引っ越してから三ヶ月になる。それまで、こんなことはなかった。気がつかなかっただけかもしれない。
 少し部屋の明るさが妙だというだけのことだ。気にしなければ、気にならないほどだ。
 三ヶ月の間、こんなことは一度もない。
 前田が深夜の三時まで起きていることは稀だ。
 いつもは一時前後に眠っている。
 途中で起きることはあるが、蛍光灯をつけないで、トイレへ行く。
 また、夜中に電話がかかってきて、起きることもある。そのときは蛍光灯を点けている。急に明るくなるため、今夜のような微妙な変化には気づかない。
 四時前、戻った。
 いつもの部屋に戻っていた。
 三時前から四時前までの間、何かが起こっているのだろうか。毎晩それが起こっているとなると、犯人は誰だろう。

   了


2008年06月24日

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