小説 川崎サイト

 

引き篭もる

川崎ゆきお



 村田は引き篭もって三年になる。
 すっかりその暮らしに慣れ、平穏な日々をすごしていた。
 そこへ、引き篭もりボランティアが現れ、その平穏が崩された。
 そこで、村田は仲間の引き篭もりグループに相談した。当然村田は引き篭もりなので、リアルで接触したわけではない。ネット上での話だ。
 すると引き篭もりグループサイトからボランティアが来た。
 引き篭もり者を守るボランティアなので、村田はリアルでも会えた。
「村田さんのような良性の引き篭もりを邪魔する奴は許せませんからね。やつらは面白がってやってくるのですよ」
「どうして、そんなボランティアが来るようになったのかなあ」
「名簿に載っているのでしょう」
「名簿?」
「引き篭もり者リストです」
「誰が、そんなの作るのでしょうか」
「そのグループの連中ですよ。まるで、危険者リストのようなものですよ」
「よく、調べたものですねえ」
「暇なんでしょう」
「それで、僕のところにボランティアが来たわけですね」
「そうです。村田さんは三年目でしょ。そのあたりから来ますよ」
「怖いですねえ。防ぎようがありません。いきなり来ましたよ」
「話に乗っちゃだめですよ。奴らは村田さんのことを心配して来ているんじゃないのです。自分のためにやってるんですよ。気持ちがいいんでしょうね。きっと」
「引き篭もり者を救うのは気持ちがいいのでしょうか」
「そうですよ。自分たちは正常で、村田さんは間違っている。そういう論理で来ますからね。正義の使者ですよ。奴らは」
「僕は別に困っていないのですがね。今、、すごく体調もよく、平穏に暮らせています。これは引き篭もったためです」
「そうでしょ。この平和を乱す輩のほうがどうかしているのですよ」
「でも、引き篭もりも、そんな奴が来るので、平和じゃないですねえ」
「やつらの正体は分かっているんだ」
「なんでしょう」
「引き篭もり者を助けるという引き篭もりをやっているんです」
「じゃ、同類じゃないですか」
「村田さんを名簿からはずすように、圧力をかけてみます」
「よろしくお願いします」

   了


2008年06月25日

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