小説 川崎サイト

 

指導員

川崎ゆきお



「しばらく休憩してました」
「そうですか。じゃ、また始められますか?」
「そのつもりです」
「もう、やめられるのではないかと心配していましたよ。岩田さんの顔を見てほっとしました。私どもの指導が悪かったのかと思いましてね」
「いえいえ」
「では、前回の続きからやられますか」
「フリースタイルでお願いしたい」
「はあ?」
「自由にやってみたいのですがね」
「あ、そうなんですか…やはり、何か不満でも」
「そうじゃないのですが、ご指導どおりに動けないもので、それでは申し訳ないと思いましてね」
「岩田さんは順調にこなせていたと思いましたが」
「まあ、そうなんですがね」
「やはり、私どもの指導プログラムに、何かご不満でも」
「そうじゃないのですがね」
「じゃ、前回の続きから…」
「いえ、フリースタイルでお願いします」
「あ、そうですか」
「勝手にやってますので、どうぞよろしく」
「自分のペースでやられるのも、またいいと思います。どうぞどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
 岩田は五分ほど体を動かすが、すぐに休憩する。
「大丈夫ですか! 岩田さん」
「はっ、何がですか?」
「お疲れですか。いつもなら十五分はやっておられたはずですが」
「いや、それほど疲れたというわけではないのですがね。小休止するのが好きなんですよ」
「では、大丈夫なんですね」
「はい。好きにやっていますので、ご心配なく」
 指導員はじっと岩田を見ている。
 岩田は見られていることが気になった。
「あのう、私のことは、いいですから」
「はい」
 岩田は運動を再開した。今度は二分と持たなかった」
「大丈夫ですか! 岩田さん」
「はい、自分のペースでやってますから」
「ああ、そうでしたね」
 指導員はずっと岩田を見続けている。

   了

 


2008年06月29日

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