小説 川崎サイト

 

弱者の道

川崎ゆきお



「どうしても勝てない同僚が多いのですが、非力な僕はどうすればいいのでしょうか」
「勝とうとは思わないことでしょう」
「でも、これは戦いなのです。勝ったほうが有利になります。負ければ不利になります。評判も落ちます」
「みんなあなたより優れているのですか?」
「はい、そうです」
「あなたより劣っている人はいませんか」
「いましたが、辞めました。私が一番弱いです」
「あなたにしかできない何かがあると思います。それを見つけ出すのは、いかがですか」
「僕にしかできないことがあるとすれば、弱いことです」
「その弱さを活かせませんか」
「活かせません。だって、弱いことを活かせば、どんどん負けてしまいますよ」
「勝っている人はあなたより努力しているのではないでしょうか」
「僕は同僚よりも努力しています。それでは通じないのです」
「では、どうなればよろしいのでしょうか」
「勝ちたいです。少なくても互角に勝負できるほどには」
「しかし、弱いので、負けるのでしょ」
「はい。だから、悩んでいるのです。理不尽です」
「理不尽?」
「同僚たちは最初から僕より強いのですよ」
「そうなのですか」
「だから、太刀打ちできません」
「負けるが勝ちといいます」
「負けると、勝ちにはなりません。それなら負け続けている僕は全勝でしょ」
「勝ちにこだわらないことがいいのです」
「これ以成績が上がらないと、首ですよ。解雇はされませんが、居たたまれなくなります」
「解雇されないのなら、続けられてはいかがです」
「それは屈辱の日々となります。それに給料も上がりません」
「下がらないのでしょ」
「まあ、そうですが」
「じゃ、今のまま負け続ければいいのですよ」
「いや、僕は勝ちたいのです。だから、相談に来たのです」
「それがあなたのキャラクターで、そういう人間だと納得させることで、自分のポジションができますよ」
「じゃ、駄目な人間だと自分で認めるのですか」
「あなたがいるから勝者がいるのです」
「違います。同僚は最初から強いのですよ。だから、勝者だとは思っていませんよ。僕が弱すぎるので、馬鹿にしているのです。相手にしていません」
「じゃ、転職ですね」
「それ、その言葉が欲しかったのです。僕より弱い同僚がいる職場へ行きます」
「はい、お大事に」

   了



2008年07月22日

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