小説 川崎サイト

 

盗撮

川崎ゆきお



 世の中には妙な発想をする人がいる。
 発想とは、想像することなのだが、創造する人もいる。
 この場合、妙な発想ではなく、妙な作り話になる。
 作り話になると、現実に存在不可能なことでも成立してしまう。そうなると常識から逸脱する。常識では考えられないことになるからだ。
 話の上では存在する世界なので、現実にはありえないため、絵空事になる。この場合、お話をお話として味わうことになる。
「やはり、現実に存在するから面白いのじゃないですかね」
 盗撮マニアの石田がいう。
「でも、よくできているでしょ、この動画」
「これが本物の盗撮なら価値はありますよ。でも、明らかにやらせでしょ」
「それは認めます。でも実際の盗撮作品でも、こんなものでしょ」
「そこが違うのですよ。映像はそっくりでもね」
「同じじゃないですか」
「映像ではなく、現実を見ているのですよ」
「動画は映像でしょ。現実じゃない」
「本物だから、説得力があるのです」
「説得力」
「現実にあったという説得力です」
「そこが私には分かりませんねえ。こういう盗撮の雰囲気がいいのじゃないのですかね」
「雰囲気は結果です」
「現実は、映像で作れますよ。盗撮しているような臨場感とかもね」
「それが駄目なんですよね。やらせでは」
「演技が駄目なんですか」
「写されていることを知っているから駄目なんです」
「知らなければいいのですか」
「それが盗撮です」
「盗撮風ではなく、盗撮がいいのですね」
「そうです。当たり前の話です。説明する必要もない」
「でも、作ってしまえるのですよね。こういう盗撮ものは」
「だから、本物に価値があるのです。よくできた盗撮風など何の価値もありません。そこに現実がない」
「でも、現実ではここまで鮮明に、映せません」
「映像が問題なんじゃない。それが現実にあったことが大事なんだ」
「それは分かりますがね。映像としては、作ったほうが、よりそれらしくなるんですがね。それに、これはありえる現実でしょ」
「現実は作れないのですよ」
「分かりました。また、違う動画を持ってきます」
「お願いします」

   了



2008年07月24日

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