小説 川崎サイト

 

草妖怪

川崎ゆきお



 草が生えている。
 背の高い線状の葉の草だ。草深いとはこのことだろう。
 よく見ると他の雑草も地面が見えないほどビッシリと生えている。
 所々に老いた松が伸びている。人が植えたものに違いない。
 雑草の中に石仏がある。ただの石ころもある。
 庭ではない。寺のある山だ。
 だが、寺の敷地ではない。村に近いので里山だろうか。
 石仏が点在している。よく見ると、何かに則って置かれているようにも思える。
 また、一箇所にビッシリと雛壇のように並んでいるのもある。これは、散らばっているものを一箇所に集めたのか、あるいは他の場所にあったものを、ここで一まとめにしたのだろうか。
「妖怪は、こういうところに出るのですよ」「出そうな雰囲気ですねえ」
「だから、出るんです」
「どんなのが出そうですか」
「さあ、昔の人のような出し方はできないでしょうな」
「今は、今風の出し方があるということですか」
「そうですな。でも、それは風情的には妖怪とはいえないかもしれません」
「先生なら、何を出します」
「草妖怪でしょうなあ」
「そんなのいるのですか」
「出そうと思えば、何でも出ますよ。だから、何でもいるのです」
「で、草妖怪って、どんな感じです」
「この細長い草を束ねたような感じで、人型に近いものです」
「それは、先生の出し方ですか」
「いや、すでに誰かが出しているかもしれませんなあ」
「で、どんな感じの妖怪でしょう?」
「草いきれ、ですよ」
「密度が高いということでしょうか」
「草の息です」
「で、何をする妖怪でしょう」
「青汁のように、草臭い奴でしょうな」
「それって、南方の密林にいそうですねえ。草をいっぱいつけて鳥の姿になって踊るとか」
「それは、少し暑苦しいでしょ。やはり、鈴虫のような涼やかさが、和風の妖怪には必要かと」
「そうやって、妖怪を出すわけですね」
「でもね、最近出にくくなりましたよ」
「よく言われていますねえ。それは。稚拙な妄想だからでしょうね」
「風流な時代じゃないですから」
「はい」

   了

 


2008年07月30日

小説 川崎サイト