小説 川崎サイト

 

夏祭り

川崎ゆきお



 小学校の校庭で夏祭りが行われている。自治会主催の盆踊りだ。
 だが、季節はまだお盆ではない。
 学校が夏休みに入ったあとの土日に行われている。これは他の自治会でも同じだ。
 この日に用意した提灯が櫓を中心にぶら下がっている。かなりの数だ。レンタルではなく、自治会費で買ったものだ。
 露天も自治会が運営している。この二日間が町内最大のイベントだ。
 特に伝統のある行事ではない。村があった時代はかなり前で、今は村の面影は何も残っていない。
 団地の夏祭りと変わらない。これは村祭りではないので、神社やお寺とも関係はない。
 しかし、やることがないため、盆踊りとなる。
 初日を無事済ませた自治会の世話役が、近くの集会所で打ち上げをやっていた。まだ明日もあるので、軽く乾杯する程度だ。
「今年も出ましたねえ」
「見ましたか」
「姿を見れば分かりますよ。あんな古い浴衣で踊っているんだから」
「あれは浴衣じゃなく、普通の着物ですよ」
「じゃ、晴れ着かな」
「芸子さんが来ているのかと思いましたよ」
「他の人も気付いていましたか」
「暗いので、よく見えなかったんじゃないかな」
「よその町内から踊りに来ている若い子じゃないですか」
「若い娘さんだけど、古いでしょ。雰囲気が」
「そうですねえ。色がなかったです」
「夏祭り五年目ですが、毎年ですなあ」
「でも、踊っているだけなので、いいんじゃないですか」
「やはり、幽霊でしょうかねえ」
「狐か狸の可能性もありますよ」
「いや、あれは人間ですよ。振袖でで踊りに来ている娘がいてもいいんじゃあいですか」
「でも、色がないでしょ。モノクロですよ。あの娘だけ」
「明日も出ますかねえ」
「去年も二日続けて出ましたよ」
「話しかけますか」
「いや、見なかったことにしましょうや」
「それが懸命かも」
 翌晩も、その踊り手が出た。
 世話人の一人が、カメラで写した。
 当然のことながら、何も写っていなかった。
 
   了


2008年08月5日

小説 川崎サイト