小説 川崎サイト

 

うろつき夜太

川崎ゆきお



「どこかで聞いたことがあるねえ。うろつき夜太」
「夜中、うろうろしている与太者でしょ」
「与太者ねえ。懐かしいねえ。昔の不良より古いんじゃない」
「それじゃ、与太郎と言う名の人に失礼ですよ」
「いるかねえ、与太郎と、今頃名前をつける親が」
「昔はいたんじゃないですか。だから、今も高齢者の中にはいるかも」
「それで、なんだい、うろつき夜太ってのは」
「最近出現する徘徊者グループです」
「夜に徘徊は、不審者だね」
「夜の散歩者です」
「歓楽街に出るの」
「いえ、住宅地です。郊外の」
「若いの?」
「はい、若者です」
「若いのに、古風な名前をつけるんだね」
「集団で歩いています」
「徒歩なら、暴走とはいえないしね」
「常に移動しているので、たむろともいえません」
「昔の若者宿のようなものじゃないのかね」
「ああ、村にありましたね、昔は。僕は知りませんが」
「独身の若者集団だよ。村じゃ、それなりに地位がある。一目置かれていたわけだ」
「いい時代ですねえ」
「私もよく知らないがね。田舎の爺さんはいたようだ」
「若者宿にですか」
「ああ、慣わしでな」
「夜でもいいのですか」
「ああ、いいんだ。村なんで、暗いだけさ」
「それは村が生きていた頃の話でしょうね」
「そうだね」
「うろつき夜太グループは、その復活でしょうか」
「で、何か悪さでもするのかね」
「まだ、実害はありませんが、町の人が取り締まって欲しいと」
「不自由な時代だね」
「健全な世の中ですから」
「建前はね」
「君は見たの。うろついているのを」
「集団で歩いています。歩きながら、話しています」
「語ることが多いんだよね。青春時代は」
「たまに奇声を上げたりとか」
「知ってる子供はいた?」
「いません」
「じゃ、町内の子供じゃないのかもしれないねえ」
「他所から来ているのでしょうか」
「新手の百鬼夜行かもしれませんなあ」
「すごい飛躍ですねえ」
「現実にはありえん現象でしょ」
「はあ」

   了

 


2008年08月25日

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