小説 川崎サイト

 

神の御柱

川崎ゆきお



 夜中に白い着物を着た行者のような人が訪ねてきた。
 訪ねられた岩井は、アパートの一階に住んでいた。
「一刻も早くたどり着きたかったのです。夜分の訪問、非礼ではありますが、いくらでもお礼は差し上げます」
「あなた、誰ですか」
「ここがそうなのか」
「それよりあなたは」
「私は神人です」
「はあ?」
「神社に仕えるものです」
「ご用件は」
「床下を見たい」
「はあ?」
「説明すると長くなります。でも一刻も早く見たいのです」
「何をです」
「神の御柱です」
「柱?」
「ここに根が植わっています」
「いきなりですねえ」
 神人は、やっと場所を探し当てたようだ。
「この近くに祠があるでしょ」
「さあ、あったかなあ」
「近所にあるのです。四つ」
「はあ」
「四塚と、呼ばれています」
 それはここの地名じゃないですか」
「御柱を埋めた場所だからです」
 神人は地図を取り出した。
「四つの祠、これは塚跡です。この四つを結びつけるといびつな四角形になります。対角線で結ぶと、このアパートの、あなたの部屋になります。これでやっと謎が解けたのです。まあ、解けるような謎です。なぜなら、御柱の場所を教えるためだからです」
「いきなり、すごい話ですね」
「畳を上げて、いいですか」
「ああ、どうぞ」
 神人は畳を上げ、床下を掘り始めた。
「すごく直接的ですねえ」
「長く隠されていた御柱です」
「何ですか、その柱は」
「神の御柱です。神が空から降りてこられるときの柱です」
「そんな長いものが植わっているのですか」
「その根です」
「それは珍しいものなんですか」
「超古代の御柱です。今の神社の柱とはまったく違います」
 神人は御柱を掘り出した。
「うう、根が腐ってる」
 夢はそこで、終わった。
 岩井は奥歯が、疼いた。
「根が腐っているのかもしれん。歯医者へ行かないと」

   了


2008年09月02日

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