ある二人
川崎ゆきお
同じことを繰り返し繰り返しやっていると、他のことをやりたくなくなることがある。
その事柄が悪くはなく、これさえやっておれば、今もそして将来にも貢献するのなら、こればかりをやりたくなる。
大西はそういうタイプの人間だ。
「ワンパターンだね」
大西とは別のタイプの奥村が言う。
「僕は同じことをやっていると、退屈するんだ。他のことをやりたくなる」
「それは、奥村君が、今やっていることが、それほど面白いことでもなく、有益でもないからじゃない。こんなことやっていても、将来何になるんだとか」
「そんなことはないさ。これをやってりゃ、将来も明るいさ。でも、面白くないんだな。飽きるんだよ。また違うことをやりたいと思うんだ」
「でも、積み重ねてきたことが台無しになりはしないか」
「それはそれでキャリアとして活きるさ。以前は、こんなことやっていたって経験にね」
「僕は保守的なのかなあ」
「悪くないんじゃない。動く必要はないさ」
「すると、奥村君は、もうすぐこの職場も去るの」
「去らないよ」
「まだ、飽きてないから?」
「次にやりたいことがまだ、見つからないから。見つかりゃ、ここ辞めるかも」
しかし、先に辞めたのは大西のほうだった。引き抜かれたのである。
一年後二人は再会した。
「まだいるの?」
辞めた大西が聞く。
「ああ、次のやること、まだ見つからないからね」
「退屈は?」
「まだ、退屈していないよ。君が辞めてから、仕事が多くなって、それなりに充実してるよ」
さらに一年後、大西はまた会社を変えた。今度も引き抜かれたのである。
そしてまた再会した。
「大西君のほうが、身軽なんだね。保守的だと思っていたのに」
「やってることは同じことの繰り返しだよ。仕事の中身は変わらないさ。転職したわけじゃないし」
「じゃ、どうして一箇所にいないの」
「違う会社へ行くたびに、給料が上がるんだ。収入、もっと欲しいからね」
奥村を引き抜く会社はなかった。
そして、次にやりたいと思う仕事もまだ見つかっていない。
了
2008年09月04日