小説 川崎サイト

 

隣の芝生

川崎ゆきお



「隣の芝生は青い」
「お隣の庭は芝生なんですか」
「そうじゃない。たとえ話だ」
「何が言いたいのでしょう」
「今、就職活動をやっているんだがね。決まりかかっておる」
「それはよかったですね」
「しかし、隣の芝生が青い」
「芝生は青いでしょ。いや、緑色かな」
「綺麗だということだ」
「芝生は綺麗ですからね。そのために芝生を植えているんでしょ。毒ダミ草ではなく」
「毒ダミ草? どうして、その草なんだ」
「うちの実家に生えているんですよ。抜いても抜いても生えてくるんです。根も深いんです。白い花が咲きますがね。繁殖力が強くて、他の草花が育たないんですよ」
「いや、園芸の話じゃない。就職先の話だ」「芝生ですか?」
「それそれ。遠くから見ると綺麗なんだが、近づいてみると、それほどでもない」
「ああ、枯れてる葉もあるし、はげてるところもありますよね」
「詳細を見るとリアルなものが見える」
「就職先の話ですよね」
「そうだ。決まりかけの会社の詳細を見ていくと、納得できん部分かかなりある」
「それは、別の会社でも同じでしょ」
「まあ、そうなんだが」
「でも、就職、決まりそうなんですね」
「感触はいい。ぜひ来て欲しいような雰囲気だ」
「じゃ、そこに決めたらどうですか」
「決めるのは先方だが、僕にも断る権利はある」
「詳細が気に入らないのですか」
「そうだ」
「たとえば?」
「潰れそうな会社なんだ」
「それはいけませんね。また就職先を探さないといけなくなりますし」
「だから、優秀な人材を探しているんだろね」
「じゃ、チャンスじゃないですか」
「待遇がよくない」
「儲かっていないからでしょ」
「だろうね」
「それで、隣の芝生はどうなんですか」
「かなりの大手だ。立派な会社だ。こちらも受けた。結果はまだだが、感触はよくない」
「それで、どうするんですか」
「希望初任給を高く要求した」
「潰れそうな会社のほうですか」
「そうだ」
「その要求が通れば、就職しますか」
「まあな」
 しかし、二つとも落ちた。
 
   了



2008年09月08日

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