小説 川崎サイト

 

怪奇趣味

川崎ゆきお



「怪奇?」
「はい」
「怪奇が好きなのかね」
「怪しいのが好きなんです」
「それはいいが、怪奇とはまた古臭いね」
「そうでしょうか?]
「ミステリアスなとかでしょ」
「ミステリーではなく怪奇です」
「その前の時代なら、怪談ですよ」
「そうなんですか? 怪談でもいいです」
「怪談になると時代劇になる」
「そうなんですか」
「怪奇もそれに近い。だから、それが好きだといっても、今はそんな怪奇なものはないでしょ」
「いえ、それは言葉だけの問題で、同じものを指しているはずです」
「怪人二十面相を知ってるかね」
「勿論です」
「あの怪人の怪が怪奇の怪だ」
「そうでしょうね」
「だから、怪人二十面相が活躍していた時代ならいいんだがね、今は背景が違うでしょ」
「そうですね」
「分かっているのかね。現実を見ているのかね」
「見てます」
「じゃ、どこに怪奇があるんだ」
「ないから、探すのが好きなんです」
「ほう」
「ああ、これは怪奇だなあ、とか、思いながら町を歩いたり」
「それは、本人の自由だから、いいけど、それを趣味といわれても、理解しかねる」
「でも、趣味は何かと聞かれたので」
「そんなの適当に答えればいいんだ。映画鑑賞とか、読書とか」
「はあ、それでは説明不足ではないかと思いまして」
「趣味はね、興味のない趣味に対して、人は冷淡だよ」
「そうなんですか」
「だから、あまり具体的に言わなくてもいいんだ。怪奇が趣味とかはいけない」
「いけませんか」
「それに、それは趣味ではない」
「はあ。でも、怪奇趣味とか言うじゃないですか」
「それは、性癖だ。どちらにしても怪奇はいけない。怪奇は」
「はい」
「もっと青年らしい趣味を考えなさい」
「はい。了解しました」

   了



2008年09月13日

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