小豆洗い
川崎ゆきお
深夜の河原だ。
水辺で二人の男が話している。
「本当に小豆洗いを探しているのかね」
小豆を洗う道具を探しているのではない。小豆洗いという妖怪だ。
「そんなのいないに決まっていることぐらい、あんた分かっているでしょ。だいいち、こんな町の中に小豆洗いなんていたら評判になる。いや、町の評判ではなく、世界的なニュースだよ」
「そうなりますかな」
「だから、まともな人間なら、そんなもの冗談でも探さない。だいいちこの川に出るとかの噂でもあるの」
「ないですが」
「それで、どんな感じなの。小豆洗いって」
「子供ぐらいの背丈の老人だよ。男か女か分からない。おそらく爺さんだと思う。小豆を器に入れて、川辺で洗っているんだ」
「それは昔の人が考えた話でしょ。おそらく虫の泣き声がそう聞こえたとか、その程度でしょ」
「えっ、虫の音が小豆を洗う音に似ているのですか」
「妙な音が川から聞こえてきたんだろ。虫か動物かは知らんが、それを小豆洗いと呼んだのだろう」
「ほう、旦那、詳しいですなあ」
「それぐらい想像で分かる。だから実態は別のもので、あんたが思っているよう子供のような背丈の老人が小豆を洗っておるわけじゃない」
「いや、いそうなんですよ」
「どこに」
「だから、この川辺に」
「それはねえ、あんたの妄想で。本当にいると思うほど風雅な人のようには思えんが」
「それより旦那。この夜中にどうしてここに」
「怪しい人間を見かけたので、何者かと思い、河原まで来たんじゃ」
「怪しいものじゃないですよ」
「土手の上の自転車はあんたのかね」
「そうです」
「アルミ缶運搬車か」
「まあ、そんな感じで」
「まあ、河原の空き缶でも拾って帰ることだな。助かるよ」
「はい分かりました」
小豆洗いは出ないが、アルミ缶拾いは出るようだ。
了
2008年09月18日