小説 川崎サイト

 

濃い男

川崎ゆきお



 濃そうな男がいる。村田は目を合わせたくないと思うものの、怖いもの見たさで見てしまった。
 顔が大きく、頭そのものが分厚い。白菜のようなボリューム感だ。どってりしている。
 村田が愛用しているそばかす入りの長細くて大きな枕にも似ている。
 ぎょろりとした目は魚の目玉のように瞬きしない。目の周辺は黒ずんでいる。
 その目が村田を長い間見ている。
 村田はすぐに目をそらしたのだが、その男は村田に興味を持ったようだ。いや、誰に対してもそうなのだろう。きっと癖なのだ。
 村田は逃げるようにカウンターへ向かう。
 小さなチラシを係員に渡し、引換券を手にする。そしてあの男のいる待合席に戻る。
 男と離れた椅子にに座る。
 村田は見ていけない方角へ視線を向ける。
 やはり男と目が合った。先ほどからずっと村田を見ていたのだ。
 村田はすぐに目をそらし、引換券を見る。番号を呼ばれれば行けばいいだけだ。
 男は表情のない顔で村田に近づいた。
「何か?」
 男が聞く。
「何もありませんよ」
「見ていたじゃないですか」
「いえ、別に」
「見ていたじゃないですか」
 カウンターから番号を呼び出す声が聞こえた」
「あ」
 その男の番号だったのか、男はカウンターへ向かった。
 戻ってから、続きがあるように思え、村田は引換所から立ち去った。

   了


2008年09月19日

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