小説 川崎サイト

 

偽ニート

川崎ゆきお



 木村は自分が偽ニートであることを知っていた。
 ただの怠け者なら、問題はないが、そこに精神的な何かで働けないとなると、これは判断が難しくなる。
 木村は何度か働いたことがある。そして長く続かないで、辞めた。
 これは働くのが嫌なだけで、その気になれば働けるのだ。我慢が足りないだけのことだろう。
 しかし、木村はそれを別の理由に持ち込もうとした。仕事中、非常にショックな出来事に遭い、精神的なダメージを受けたことにした。
 これなら怠けているのとは違い、働きたいのだが働けない精神状態にある人間ということで、逃げられると思ったからだ。
 精神的な患いとして認めてもらえるように仕向けたのだ。
 だが、木村の、この怠け癖は病気に近いものがある。
 誰しも怠けたいとか楽をしたいとかの気持ちはある。その度合いが木村は強いのだ。
 そこまで強いと病気の部類に入るかもしれない。
「原因はよく分かりませんが、精神的な何かが原因だと思われます」
 木村は心療内科の若い医師から強引にこのお墨付きを引き出した。
 何が原因なのかの物語が必要だった。
 木村は両親の不和をでっち上げた。
 他人様のせいにするより、肉親のせいにするほうが罪は軽いし、迷惑もかからない。
 木村の両親はそれほど不和ではない。喧嘩はするし、母親は木村に愚痴ることもある。
 木村はそれをネタにした。
 これで晴れてニートになってしまった理由ができた。
 怠けているのではなく、就業に適さない人間として公認ニートになれたのだ。
 木村はニートという居場所を見つけた。これは怠け者にとってはありがたい場所だ。
 そして木村はニートのための訓練所へ通うことになったが、ニートから脱出する気がないため、ほとんど行っていない。
 面倒なので、怠けているのだ。
「やはりそれは怠け病ですな。これは病気ではなく、怠けたいという欲望ですよ。金銭欲を病気だと言わないでしょ。それと同じです」
 訓練所のスタッフが木村に諭した。
 見破られていたことを知り、木村は二度と訓練所には行っていない。

   了


2008年09月23日

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