小説 川崎サイト

 

ある決裂

川崎ゆきお



「じゃ、これで」
「もう帰ります?」
「はい」
「まあ、この後、食事でも」
「次の用件がありますので」
「それは残念ですね」
「では、また次回、報告に伺います。僕たちは仲間ですから」
「仲間と友達とは違うのですね」
 清原は立花の問いには答えず伝票をつかんだ。
「割り勘でいいですよ」
「仕事ですから。経費です」
 しかし清原はレジで領収証を請求しない。
「最近雨が多いですねえ。降り出すとどっときますねえ」
 清原はそれにも答えず、ビジネスバッグを肩に掛ける。
「近くにそば屋があるんですよ。結構いけますよ」
「はい、またの機会にご一緒を」
「今じゃだめですかね」
 清原はケータイの時計を見る。
「そうでしたね。用件があるんでしたね」
「じゃ、私はこれで」
 清原は改札へ一直線に、そして早足で歩いていく」
「待ちなさいよ」
 立花は思わず声を荒立てた。
「はあ?」
 清原は振り返る。今までふさいでいたまぶたが開いたのか、目が大きい。
「友達じゃないの」
「そうですよ。私たち仲間は皆友達ですよ」
「じゃ、用事が終わった後、食事ぐらいいじゃないか」
「だから」
「次の用件があるって言うだろ」
「はい」
「ないくせに」
「はあ?」
「ないくせに」
「ありますよ」
「すぐ帰りたいから、言ってるんだろ」
「えっ、何です。どうしたのです。立花さん」
「いつもあんたはそうなんだよ」
「はあっ? 何なんです」
「俺を避けてるじゃないか。用件以外ではつきあいたくないんだろ。無駄な時間を使いたくないんだろ」
「失礼します」
「何だよ」
 立花は清原の腕をつかむ。
「えっ、いったい何?」
「君のことだよ。君の。君の態度を言ってるんだよ。今日は我慢ならん」
「離してくださいよ」
 清原は立花を振り払い、改札に逃げ込んだ。
「おい、もう君とはこれまでだ。二度と来るな」
 清原は何も聞こえないふりで、改札を抜けていった。
 
   了


2008年09月29日

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