見回り組
川崎ゆきお
「また出ましたよ」
早朝の喫茶店で、徳田が町内の友人に話す。
「朝から怪談かい?」
「私もぼけたのかなあ」
「錯覚だよ」
「眠れなくてね、夜中たまに外に出るんだよ。それがいけないのかなあ」
「夜は寝てるもんだよ」
「そうなんだけど」
「また、あの団体さんかい」
「そうなんだ。夜中の二時頃だ」
「そんな時間に外に出るから妙なものを見るんだよ」
「最近は町は明るいんだよ。コンビニも開いているしね。昔と違うさ。車も通っているしさ」
「じゃ、化け物も出ないだろ」
「ああ、最初は化け物だとは思わなかったさ。幽霊なんて、とんど出ない時代だからね」
「百鬼夜行なんだろ」
「そんな元気な感じじゃない」
徳田が見たのは、町内の見回り隊だ。町内の防犯組織で、それは珍しくはないのだが、夜中の見回りは例が少ないだろう。
しかし、深夜から朝方にかけての空き巣は多い。
「夜中に見回りはしないだろう。聞いてないよ。うちでは」
「お年寄りなんだけどね。五人か六人、歩いているんだよ」
「それは前にも聞いた」
「私もこの町内に長く住んでるが、見かけない人たちなんだよね」
見回り隊はそろいのグリーンのジャンバーを着ているらしい。手に手に懐中電灯をともし、方々を照らしながら歩いている」
「よその町内の見回り隊じゃないの」
「深夜はないと思うよ」
「すると、妖怪変化じゃない」
徳田は、それを言おうとしていた。
「遠くから見ているとね、懐中電灯の明かりがうるさいんだよ。工事中みたいにね。近寄ると、お年寄りが照らしているんだ。塀や、玄関先や、人の家の庭とかね」
「それで?」
「深海潜水艇のようにサーチライトを照らしながら、ゆっくりゆっくり進むんだよ」
「それはやっぱり妖怪変化だよ」
「ああ、出たって、感じだ」
「徘徊老人の群れじゃないの」
「徒党は組まないと思うけど」
「まあ、夜中に外に出ないことだな」
「ああ、そうするよ」
了
2008年10月10日