小説 川崎サイト

 

英雄の剣

川崎ゆきお



 勇者が長老に聞く。
「英雄の剣とはどんなものか?」
 長老は驚いた顔をするが、演技臭い。まだ長老になって間もないためだ。
「そこもとはどうして、それを知っておる」
「何を?」
「だから、英雄の剣をじゃ」
「凄い魔獣がいる。そいつが持っておるらしい」
「ほう、そこまで辿り着かれたか」
「まあな」
「では、そこもとはもう立派な勇者」
「それはいいから、英雄の剣の性能を知りたい」
「ほう……」
 長老は噂で知っている。別にじらすつもりはないが、そんな質問をする勇者は初めてだ。先代の長老は何度もそれがあったかもしれない。そんなとき、どう答えたのかは知らない」
「魔獣が持っておる。それを倒せば手に入ると聞いた」
「ではもう、最後の戦いに挑む感じか」
「感じではなく、事実だ」
「あっ、そう」
「最後の戦いは魔獣王だ。これは強い」
「そうよ。強い」
「そのため、英雄の剣が必要と言われた」
「当然じゃな」
「で、その性能だ」
「ほう」
「どれほどものだ」
「そこもとの剣よりよく斬れるはず」
 勇者は太刀を持っていた。俗に言う日本刀で、かなり大振りだ。
「両手剣じゃと聞いておる」
「二刀流か?」
「いや、双剣ではない。両手でないと扱えぬ大剣じゃ」
「わしの剣も片手では扱えん」
 長老は勇者の武器を見る。
「細身の長剣じゃな」
「ああ」
「英雄の剣はかなり刃が広い」
「ああ、想像できる」
「そして重いので、ダメージがでかい」
「そうか、でかいか」
「しかし、軽快には振り回せぬ」
「それだけの違いか」
「物理攻撃力がかなり強いと聞いておる」
「それだけか。それ以外の特徴はないのか?」
「重くて扱いにくい。よって、それを扱えるのは英雄のみ。ゆえに英雄の剣と言われておる」
「分かった、その剣を持っておる魔獣を倒すのは辞めた」
 勇者は立ち去ろうとした。
「待て、魔獣王を倒すには英雄の剣がいるぞ」
「武器攻撃力が多少ある程度では、必要ない」
「これっ、順番を守れ」
「なぜだ」
 英雄の剣を手に入れて、最後の魔獣王を倒すからこそ英雄なのじゃ」
 勇者は長老に諭され、形を踏むことにした。
 しかし、魔獣に倒され、引退した。
 噂によると、その魔獣のほうが、魔獣王よりも強かったようだ。
 長老はそこまでまだ知らない。

   了


2008年10月14日

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