小説 川崎サイト

 

露店薬屋

川崎ゆきお



 魔獣のいる洞窟前に薬の露店がよく出ている。
 魔獣が宝箱を守っており、それを倒すことで、大金が手に入る。
 その薬屋も、以前それを得ようと戦ったのだが、回復薬を忘れてきたため、頓挫した。
 その後、ずっと洞窟前で薬の商いをやっている。
 そこへ冒険者が現れた。一日何人も来る。
「何だ、こんな所で露店か」
「どうです。一つ」
「こんなところで、露店してもは儲からないだろ。露店は村の広場でやるものだ。まあ、僕は買わないけどね」
 冒険者はそのまま洞窟に入ったまま出てこない。
「だから、回復薬が必要なんだ」
 しばらくして、また冒険者が来た。
「どんな薬なんだい?」
「回復力です」
「大きいの?」
「サイズですか」
「そうだよ。大きい方が効果があるんだ」
「中瓶です」
「中瓶なら、ここの村でも売ってるじゃない」
「はい、そうですが」
「それなら、わざわざここで買う必要ないじゃない」
「忘れてきたとか」
「忘れないで、持ってるよ。大量にね」
「それは用意のいいことで」
「で、安いの?」
 冒険者は値段を見る。
「四倍の値段じゃないか」
「はい」
「はいじゃないよ。こんなの誰が買うの」
「薬を切らした人です」
「切れたら、村に戻って買えばすむことだ」
「でも、村までは時間がかかりますよ。面倒でしょ」
「それで、四倍か」
「まあいい。僕は大瓶を沢山持っているんだ。必要ない」
 その冒険者は、洞窟に入り、すぐに出てきた。
「弱かったよ。回復薬使うほどでもなかった」
「それは何よりで」
「君も、こんなところで、小商いしないで、魔獣を倒せばいいじゃないか。宝箱が手に入るぜ」
 冒険者は、金塊の入った袋を見せた。
「金が欲しいのなら、こっちのほうが早い。そうだろ」
 冒険者は去った。
 薬屋も冒険者なのだが、今ではすっかり薬屋になってしまっている。
 たまに、薬を忘れた冒険者が、ありがたがって買ってくれる。
 それでいいのだと、薬屋は思った。
 
   了


2008年10月31日

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