小説 川崎サイト

 

半額醤油

川崎ゆきお



 コンビニだった建物がなくなり、貸店舗のまま放置されていた。
 しかし、たまにシャッター上がり、人がいる気配がする。
 コンビニだった頃のガラス窓などは、ポスターのようなもので、目隠しされている。
 週に一度ぐらいは、店が開く。しかし店名はない。コンビニの看板がなくなっているだけで、そのあと何屋さんが入ったのかは分からない。
 元々、酒屋さんだった。今も、酒屋はコンビニ跡の横に残っている。
 コンビニも酒屋がオーナーだったに違いない。
 だから、貸店舗になっているその建物も、酒屋の持ち物だろう。
 では、週に一度だけ開く店とは何だろう。
「醤油がスーパーの半額らしい」
 近所の人は、チラシでそれを知った。
「あれだよね。あれ」
「ああ、あれね」
 週に一度開くとき、中高年の人々が並んで待つ。
「こっちへ来たのかねえ」
「駅前でもやってたよ」
「違う業者だよ。きっと。あそこは健康器具だ。最終的にはマッサージ機売ってるんだ」
「そうだね。醤油半額で、逃げるか」
「そのあと、まだまだあるよ」
「醤油はどうせ買わないといけないけどね。そのあと出てくるのは、今ひとつかな。いるもんじゃなし」
「缶詰でしょ」
「あってもいいけど、食べるかどうかだよ」
「私は、缶詰まで行きますよ」
「それ以上、行かない方がいいよ」
「それは承知の助さ」
 こういう集まりに慣れているのか、美味しいところどりで、肝心のものは買わないで、逃げてしまうようになった。
 最後は健康食品らしい。だが、それを買った人は一人もいない。
 醤油だけで、終わっている。
「引っかからないねえ。最近」
 業者が言う。
「賢いねえ。この町内。醤油は買うけど、そのあと買わない。メーカー品のビスケットも買わない。半額なのにね」
「これじゃ赤字だ」
「もうやめましょうよ。だまされてるのは、こっちだよ。買いそうなそぶりで、座っているのに、肝心の商品を出すと、沈黙だ」
「読まれてますなあ」
「利用されてるんだよ」
「酒屋の親父が入れ知恵してるんだ。きっと」
 その後、週に一度開く店は、開かなくなった。

   了

 


2008年11月1日

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