八百長野球
川崎ゆきお
「プロ野球には八百長はないでしょ。個人戦じゃなく、団体戦なので、出来ないんじゃないですか」
「それが、やってるんですよ」
「個人的にですか？」
「そう」
「でも一人の選手が、手を抜いても、確実性は低いですよ。また、活躍する場がないと駄目でしょうから」
「監督は別でしょ」
「そうか、監督が負けるように……」
「どう考えても、そうだとしか思えないような試合があるでしょ」
「采配ミスを装ってとか？」
「それも、成功率が低いですよ。下手をすると、その采配が裏目に出て、勝負に勝ってしまう恐れもあります」
「じゃ、どういうふうに」
「ピッチャーです」
「あ、ピッチャーに打たれるよな球を投げろとか」
「それじゃ、ばれてしまいますよ」
「そうですねえ、じゃあ？」
「投手の起用です」
「はあ、それがどうして八百長だと」
「それ用の投手がいるのです。本人は気付いていないのですがね。まあ、気付いていればまずいです。八百長に参加していることになるので。それにそんなことで、選手生命を終わらせるのは厭でしょ。八百長に協力するような投手なんていませんよ」
「でも、いるんでしょ」
「手持ちは一人です。それ以上は無理ですな」
「八百長用選手は一人と言うことですね」
「先発ピッチャーです」
「ほう」
「その投手は、出れば負けています。たまに勝つことがありますが。それは失敗ですね」
「で、どうやって八百長を」
「そのままでいいんです。その投手は二軍以下です。それを知っているのは監督だけ。運悪く負けが込んでいると思い込ませているのです」
「そんな奴、先発させれば負けるでしょ」
「だから、八百長の成功率が高いのです」
「でも、点を取られすぎると、ピッチャー交代でしょ」
「交代させますよ。当然。でも、大量点を取られてしまい、もう火消しは出来ない」
「はあ」
「じゃ、その投手が先発の日は、八百長の日なんですね」
「そういうことです」
「でも、そんな投手、成立しないんじゃないですか。力がないのに、一軍で先発でしょ。本人も気付いているのでは……周囲も知ってるでしょ」
「ところが、八百長ではない日に、勝つこともあるですよ。誰が先発しても、連敗中とかに、やけくそで出すんです。意外と勝ったりするんです」
「でも、それって、選手に失礼ですね」
「まあね」
了
2008年11月9日