妙な家族
川崎ゆきお
「妙なものを見たよ」
「君の視線が何でもかんでも妙なものを映し出すんだよ。妙なのは君なんだ」
「今度はそうじゃない。それほど妙じゃないからさ」
「ほう、普通のものか」
「普通の人だ」
「その人が妙なんだね」
「だから、いつも僕が言ってるような妙さ加減じゃなく、一般的なんだ」
「どんな人」
「家族だ」
「家族って、どこでも妙だよ。何か取り決めがあって、ルールがあって、世間では通じないローカルルールでできあがっているんだから」
「それに近いかもしれないけど、遠いかもしれない」
「どんな家族なんだい」
「郊外のレストランだ。近くに大きなショッピングセンターがある。日曜になると駐車場が満員になるほど流行ってる」
「その家族がレストランで食事していたんだね」
「そうそう」
「で、どうなの」
「四人で来ている家族だ。夫婦と子供とお婆さんだ」
「はいはい」
「妙なのはそのお婆さんでね。一人だけジャンルが違う」
「ジャンル?」
「着ているものが違う。だから、種族が違うような」
「どんな服装?」
「ジャージだ。ズボンはトレパンだ。そして上はチャンチャンコだ。綿入りの、醤油のしみたような色の。そして、髪の毛はポニーテールで、茶色に染めているが、もう色が落ちて白髪が見えている」
「夫婦と子供は?」
「普通だ。遊び着だ。上等なのじゃないけど、よくある服装だ。一般、普通だ」
「だから、お婆さんは予定外で、急に食べに行くことになって、そのまま車に乗ったんだろ」
「そうだと思うけど、家族ではなく、知り合いのお婆さんかもしれない」
「だから、種族が違うように見えたのかな」
「お婆さんも、よくある一般的なのを着ていないとおかしい。同じ家の家族なら」
「お洒落の嫌いなお婆さんだろ」
「別に異常はない。だけど、妙なんだ」
「はいはい」
「あんなお婆さんに追いかけられたら、怖いだろうなあ」
「はいはい」了
2008年11月19日