小説 川崎サイト

 

オンリースリー

川崎ゆきお



「負け犬の遠吠えだね。君のいうオンリーワンとやらは」
「その発想を変えて欲しいのです」
「我が社は業界でナンバースリーだ。これだけで、どれだけ肩身の狭い思いをしているか。待遇が違うんだよ。ナンバーワンの会社とは。まあ、ナンバーフォーよりは待遇はいいがね」
「だから、そういう順番にこだわる必要ないのですよ」
「私がこだわらなくても世間がこだわるだろ」
「ですから、その発想でナンバーワンに向かうのではなく、我が社独自のやり方で……」「どこの会社も独自だよ。経営方針はそれぞれ違う」
「はい」
「どこで、そんな負け犬の発想を仕入れてきたんだ。そんなことでは競争社会じゃカモにされるだけじゃないか」
「でも、誰もがナンバーワンになれるわけではありませんから」
「だから、ナンバーワンに価値があるんだ。誰だってなれれば価値は生じない」
「我が社はなれますか?」
「なれないだろうねえ。私らの時代では。しかし、ナンバーワンを目指す気概は持っている。何が起こるか分からん世の中だ。もしかすればなれるかもしれないからね。上位二社が潰れることだって考えられる」
「でも、オンリーワンという発想。面白いと思うのですが」
「そんな発想では、会社は潰れる。負けを認めるようなものじゃないか。それこそなめられる」
「ですから、独自の展開で……」
「やってるじゃないか。あたりまえのことだろ。勝つために色々考えておる。何も猿まねで追従しておるだけじゃない。それをやっても勝てないんだ」
「ですから、勝とうと思わないで、より独自の世界を……」
「うちの独自性なんて、作ったものだよ。勝つためにね」
「我が社らしいやり方で……」
「やってるじゃないか。それで、業界のベストスリーに入れたんだよ。まあ、ここまでだがね。これで、めいっぱいだと思う。上位二社はきわめて癖の強い独自なものを持っておる。そこまでの独創力はうちにはない」
「でも、順位にこだわりすぎているのではないでしょうか。三番目だから、肩身が狭いとか」
「いや、下の会社には形見は広いよ。大いばりだ」
「じゃあ、やはりナンバーワンを目指す姿勢は変えないのですね」
「君もうちがナンバーワンになれば、喜ばしいだろ」
「はい」

   了

 


2008年11月26日

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