小説 川崎サイト

 

不動明王

川崎ゆきお



「彼は動かない人だなあ」
「そうですねえ。じっとしてます」
「じっとか、確かに」
「自分から動かないですよ」
「受け身なんだろうね」
「受け身もしないようですよ。受けてくれないですから」
「じゃ、何もしない人なのか」
「最低限のことはやるようですが」
「それで、やっていけるのが不思議だ」
「チャンスがあっても動かないです」
「ピンチなら、なおさら動かないだろうね」
「不動明王って言われています」
「動かないと言うだけの意味だね」
「そうです」
「風林火山じゃない」
「よく動きますよ。風林火山は」
「動かざること山の如し、だけじゃないからね」
「臨機応変でしょ。風林火山は」
「だから、動かないだけなので、不動明王か」
「まあ、明王は嫌みな言い方ですよ」
「明王って何だっけ?」
「王様でしょ」
「裸の王様もあるから、いいんじゃない。不動明王も。彼には」
「でも、会社が潰れると、彼も不動明王じゃいられなくなるでしょ。動かざるを得ないでしょ」
「いる場所がないからね。不動も出来ない」
「彼のようなタイプ、どう思います」
「安定感があっていいんじゃないかな」
「でも、出世できないですよ」
「望んでいないのでしょ、彼は」
「そうだと思います。今のままのほうが居心地がいいはずです」
「置物だね」
「アクセサリーですよ」
「縁起物だ」
「でも、それのキャラを獲得するまで、大変だね」
「首にならない程度には動かないといけませんからね」
「僕らより賢明かもかもしれないなあ」
「どうしてですか」
「あのキャラ出来るのは一人だけさ。先に取ったやつが勝つ」
「ああなるほど」

   了 

 


2008年11月27日

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