小説 川崎サイト

 

修繕せず

川崎ゆきお



「屋根が傷んでいるようなんですが」
「あ、そうなの」
「この近くで作業してる工務店の者です。上から見ると屋根が……」
「そうなの」
「修繕しないと大変なことになりますよ」
「どんな?」
「雨漏りとか」
「しないけど」
「してからでは遅いと思いますよ」
「そうだね」
「ちょっと拝見してよろしいですか」
「屋根に上るの」
「はい」
「どこから?」
「梯子持ってきます」
「用意がいいねえ」
「近くで作業してますから」
「どこの家」
「すぐ近くの」
「どこから見たの?」
「下からでも分かります」
「さっき、上から見たんでしょ。作業中の家から」
「そんなことより上がりますよ」
「ずらしたり、壊したりするんだろ」
「え?」
「排水見に来た人、排水管壊してるところ見たんだよ」
「そんなことしませんよ」
「じゃ、見てきて」
「はい」
 作業員は屋根に上がった。
「やはり、ずれてます。これ、落ちますよ」
「ずらしてきたんでしょ」
「そんなことしませんよ。修理しないとまずいですよ」
「はいありがとう」
「早速工事に入りましょうね」
「見たんでしょ」
「はい」
「じゃ、それで終わりだ。報告ご苦労様」
「だから、修理しないと」
「君が壊したんだろ」
「壊しませんよ。本当にずれてますから」
「その手は食わない」
「雨漏りしても知りませんよ」
「君が壊したくせに、、何言ってる」
「本当に僕じゃありません。電話してください。この近くの三村さんの屋根から、ここ見たんですよ。だから、親切で……」
「たとえ、そうだってもいい」
「どうしてですか」
「明日、この家取り壊しなんだ」

   了

 


2008年12月1日

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